天の川銀河は周囲に対して大きすぎると判明!
中世の人々は地球が宇宙の中心であり、太陽も星々も地球を中心としてまわるとした「天動説」を信じていました。
しかしコペルニクスをはじめとした天文学者たちの功績により地球は宇宙の中心ではなく太陽すらも「平凡」な恒星の1つに過ぎないことがわかってきました。
また現代では、観測可能な範囲に存在する銀河の60%が渦巻状銀河であり、天の川銀河は何十億個と存在するそれらの1つであることも判明しました。
そのため私たちはいつの頃からか天の川銀河もまた、なんの変哲もない「ありふれた銀河」と思い込むようになっていました。
しかしIllustris TNGで行われたシミュレーションでは、私たちの常識と異なる結果が得られました。
Illustris TNGは宇宙規模での銀河形成をシミュレートする大規模なプロジェクトであり、「宇宙ウェブ」とよばれる宇宙の大規模構造の形成と進化の背後にあるメカニズムを理解することを目指して最大で30メガパーセク(約10億光年)の幅にある何百万もの銀河を含む領域をシミュレートしています。
今回Illustris TNGで行われた新たな研究では、私たちの天の川銀河は質量や密度、形状といった銀河単体としてのスペックは平凡であったものの、周辺環境との関係が極めて珍しいことが判明します。
私たちの天の川銀河は大小50~60個あまりの銀河で構成される局所銀河群の中に含まれています。
銀河系を家に例えるなら局所銀河群は「〇番地」や「〇丁目」にあたる最も下位の住所区分であり、局所銀河群が集まって銀河団、銀河団が集まって超銀河団、さらに超銀河団が連なって網の目状の宇宙の大規模構造が作られていきます。
またこの局所銀河群の特徴として、薄いシート状の構造(ローカルシートと呼ばれる)をしている点があげられます。
たとえば天の川銀河の場合、上の図のように、直径3000万光年ほどの平らなローカルシートの中央部に位置していることが知られています。
このようなシート状の構造は、かつてまばらに分布していた物質が重力によって互いに引き寄せられ1つの軸にまとまっていった結果できました。
今回のシミュレーションでは、同じローカルシートの内に存在する銀河たちは他の銀河の自転に影響を与えており、ローカルシートの外にある銀河に比べて自転が組織的に行われていることが示されています。
つまり何万光年も離れた銀河たちの回転に、ある種の同期が起きていたのです。
またシミュレーションでは、一般的な銀河はローカルシートのサイズに対してかなり小さくなる傾向があることが示されました。
一方、私たちの天の川銀河は外れ値をとっており、ローカルシートのサイズに対して「驚くほど巨大」であることが判明します。
再び家や住所で例えるならば、小さな番地の中に巨大な城が建っている状況と言えるでしょう。
計算では、天の川銀河のようにローカルシートのサイズに比して異質なほど大きな銀河が存在する確率はおよそ100万分の1であり、同じような銀河を発見するには5~6億光年もの旅をしなければなりませんでした。
またこの確率は、天の川銀河の近傍にあり天の川銀河より大きなアンドロメダ銀河の存在を含めると、さらに低いものになります。
ローカルシート内部に巨大な銀河が2つ並んで存在する確率は、ほぼゼロに等しくなるからです。
(※天の川銀河とアンドロメダ銀河は今から45億年後に合体して「ミルクドメダ」と呼ばれる巨大銀河を形成すると考えられています)
天の川銀河とアンドロメダ銀河という2つの大きな銀河の存在を許容するローカルシートには、他にはない特殊性があるのかもしれません。
研究者たちはコペルニクスの地動説以降、私たちは自らの属する銀河やローカルシートを「ありふれたもの」と思い込む「コペルニクス的偏り」にとらわれてきたと述べています。
しかし研究結果が示すように、天の川銀河が極めて稀な立ち位置にある場合「コペルニクス的偏り」にとらわれ続けることは、宇宙の大規模構造について歪んだ解釈をうみだすでしょう。
自分たちの属する天体が宇宙でも特別なものかもしれないという話は、ワクワクする報告ですね。
もしかすると、将来天の川銀河は宇宙の進化を理解する上で重要な存在になるかもしれません。