野生の菌根菌から電気活動を初めて観測!
今回調査された「菌根菌」は、植物の根に菌糸を侵入させて、菌根と呼ばれる共生体をつくる菌類です。
土壌中に走らせた菌糸ネットワークを介して植物と共生関係を築くことで、森林生態系の維持に大きく貢献しています。
たとえば、菌根菌は土の中から水や養分を集めて植物にあげる代わりに、植物から光合成の産物である糖分をもらっています。
また植物同士は菌糸ネットワークを通じて電気シグナルを伝達し合っていますが、これについては科学的データに乏しいのが現状です。
脳のような高度な神経系を持つ動物であれば、電気シグナルによって情報の伝達・処理をしていることはよく知られています。
しかし近年では、脳を持たない菌類も電気シグナルをやり取りしていることが明らかになってきました。
ただしその観測はすべて実験室内の環境に限定されており、野生下では前例がありませんでした。
雨が降るとテンションが上がった?
そこで研究チームは、野外の森林の地上に顔を出している菌根菌「オオキツネタケ(学名:Laccaria bicolor)」を対象に実験を開始。
オオキツネタケは夏〜秋にかけて、ブナ科の広葉樹やマツ科の針葉樹の林床に発生します。
本種が属するキツネタケ属は「アンモニア菌」と呼ばれる種類が多く含まれ、動物の排泄物や死骸の跡に好んで出現するそうです。
今回の実験では、オオキツネタケのキノコ(子実体)6個に電極を刺すことで、野外の菌類で初となる電気シグナル伝達の観測に成功しました。
チームによると、キノコの電極を刺した直後は電気活動がほとんど計測されなかったといいます。
ところが、2日間の観測中に雨が降り、降雨が始まってしばらくするとキノコの電気的な活性が大きく変動したのです。
さらに雨が止んだ後もキノコの電気的活性は維持されていました。
次に、雨が止んだ後にキノコの電気活動が安定したときのデータを分析したところ、キノコ間の電気シグナルのやり取りに「方向性」がある可能性が示唆されました。
具体的には、キノコ1の電気活動の変化はキノコ2に即座(1秒後など)に影響を与えますが、反対にキノコ2の電気活動がキノコ1に影響を与えるには数秒程かかっていたのです。
「これはキノコ間には確かに電気シグナルの伝達があるが、その伝達には方向性があることを示唆するデータである」と研究者は指摘します。
またこの規則性はキノコ同士の距離が近いほど強くなっていたそうです。
雨が降ったことによってキノコたちがどんな会話をし、それが何の役に立っているのかはまだ分かりません。
しかし本研究の成果から、菌類が野外でも菌糸ネットワークを介した電気シグナル伝達を送り合っていることが明白になりました。
先ほど言ったように、菌根菌は地中に菌糸ネットワークを走らせて、さまざまな植物と共生関係を築きながら、植物同士を繋いでいます。
そのため今回の知見は、菌根菌を介した植物同士の電気シグナル伝達など、菌類が植物の生活や、ひいては森林生態系においてどんな役割を果たしているのかをより深く理解することに役立つでしょう。