どのように葉緑体を盗んで光合成をしているのか?
ラパザが葉緑体を獲得するにはまず、テトラセルミスの細胞を捉えて「貪食(どんしょく)」を行います。
貪食とは本来、細胞内に取り込んだ餌を消化・吸収して、栄養分を得るためのメカニズムです。
ところがラパザの場合、テトラセルミスの細胞を消化することなく、餌の葉緑体だけを分離して、それ以外は細胞の外に捨てていたのです。
葉緑体だけがラパザの中に残され、テトラセルミスの細胞核やDNAは排除されていました。
これはテトラセルミスの葉緑体を機能させるための遺伝子が失われることを意味するので重大です。
しかしチームはその後、ラパザが
・盗んだ葉緑体を細胞分裂により、それぞれの細胞に分配して増殖させていたこと
・2週間が経過しても盗んだ葉緑体はちゃんと光合成を続けていたこと
・光合成による産物をラパザ細胞が利用していたこと
を確認しました。
このように盗葉緑体の機能が維持されることは、それが働くために必要なタンパク質を次々と供給し続ける遺伝子があることを示します。
葉緑体を働かせる遺伝子を「他の植物」から獲得
そこでチームは、ラパザが発現している遺伝子の全レパートリーを解析。
その結果、本来は植物ではないラパザの核ゲノムに、葉緑体の機能に関わる多数の遺伝子が存在し、これらがタンパク質を作って葉緑体の内部に送り込んでいることが分かりました。
さらにその遺伝子の多くは、葉緑体のドナーであるテトラセルミスとはまったく別の様々な「植物」の仲間からバラバラに獲得されていることが示されたのです。
こうした盗葉緑体の制御の仕方は異例中の異例だといいます。
ラパザはその後、盗葉緑体の獲得から1カ月強で死滅しました。
本研究の成果からチームは次のように述べています。
「ラパザは私たちが探し求めていた葉緑体獲得の途上にある生物の特徴を示し、”植物”が如何にして誕生・進化したかを理解する上で極めて重要な発見です。
ラパザは葉緑体の獲得進化の過程に直接アプローチできる画期的な研究材料だと言えるでしょう」
太古の昔に失われてしまったと考えられていた、生物が植物へと進化する現場をラパザは現代に保存し続けているようです。
進化のタイムカプセルのようなこの存在は、今後生物研究にどのような発見をもたらすのでしょうか。