脳が左右非対称になる仕組みを大阪大学の研究が解明!
私たち人間をはじめとする多くの動物は、外見は左右対称であっても内臓の配置は左右非対称です。
体の表面にある目も鼻も口も耳も手足の配置も左右対称ですが、心臓は左側、肝臓は右側に偏っており腸の巻き方も種が同じならば同様のパターンを見せます。
頭蓋骨に格納されている脳の場合、一見すると左右対称の形をしているようにみえますが、右脳と左脳は異なる脳機能を分担していることが知られており、明確な左右非対称性を持っています。
またこれまでの研究により、脳の左右非対称性は昆虫のような無脊椎動物から人間をはじめとした脊椎動物に至るまで幅広い種に存在することがわかっており、記憶や判断など高次の脳機能において重要な役割を果たしていると考えられています。
特定の脳機能を担当するニューロンを右脳または左脳に集中させることは情報処理の効率化につながり、分散配置するよりも高度で複雑なネットワークを構築させることが可能になります。
しかし脳の左右がどのような仕組みで決まるかは、脳の複雑さや見た目からの判断のしにくさのせいで、多くが謎に包まれていました。
そこで今回、大阪大学の研究者たちはシンプルながらも左右非対称性を備えた「ショウジョウバエ」の脳を調べることにしました。
脳の研究をするのにサルやマウスはともかく、ハエは全く不適当だと思う人もいるでしょう。
確かにショウジョウバエは人間に比べて遥かに単純な脳しか持ちませんが、基本的な記憶や学習を行うことが可能です。
また1匹1匹のハエにも攻撃性の強さや活発さなどに違いがあり、小さな脳でも個性のような違いがうまれることがわかっています。
さらに近年の研究により、ハエの脳も失恋によるストレスを感じたり、そのせいでアルコール依存症になりやすくなったり、やる気が落ちると薬物に溺れやすくなったりと、人間の脳と同じような特性を持っていることも判明しています。
(※人間の脳細胞とハエの脳細胞が酔っぱらうアルコール濃度も同じです)
加えてショウジョウバエの脳には左右非対称性を調べるにあたり非対称体(AB)と呼ばれる便利な部分がありました。
非対称体(AB)はその名の通り左右非対称な構造であり、左側よりも右側が大きくなっています。
また重要な点として、非対称体(AB)の左右差が失われたショウジョウバエは短期記憶は問題なくできるものの、長期記憶ができなくなってしまうことが知られていました。
もしショウジョウバエ脳にある非対称体(AB)がどのように作られるかを詳しく知ることができれば、脳の左右非対称性が発生する仕組みを突き止められかもしれません。
そのため研究者たちは非対称体(AB)に存在するさまざまなニューロンの可視化を行うことにしました。
すると、ショウジョウバエの脳は最初は左右対称に造られていましたが、時間が経過するにつれて左脳の非対称体(AB)の神経突起が刈り込みされたかのように縮小していき、体積も明確な差が生じはじめたのです。
また左脳で神経突起の刈り込みが行われている仕組みを調べたところ、ステロイドホルモンの一種で昆虫で脱皮や変態を促進する作用があるエクジソンが需要な役割をしていることが判明しました。
たとえばショウジョウバエのエクジソン遺伝子を働かないようにした実験では、非対称体(AB)の左右差が反転することが示されました。
この結果はショウジョウバエ脳の左右非対称性がホルモン調節によって起こることを示します。
興味深いことに、ホルモンと脳の左右非対称性の関連は人間・ニワトリ・カレイなど複数の脊椎動物においてみられています。
(※人間もニワトリもカレイも脳は右脳と左脳が存在します)
たとえば人間の場合、側頭部の構造が男女によって微妙に違うことが示されており、その違いが性差に起因する脳内のステロイドホルモンの働きに起因する可能性が示されています。
また体全体に左右非対称性を持つヒラメでは頭部の非対称なネジレに甲状腺ホルモンが重要な役割を果たしていることが示されています。
さらにニワトリにおいてもコルチコステロンやエストラジオールなどのホルモンが、視覚投影領域の非対称化に関連していることが示されました。
これらの結果は、昆虫から人間に至る幅広い動物脳の左右非対称性形成メカニズムが共通である(進化的に保存されている)可能性を示します。
また研究者たちは、脳の左右非対称性が記憶や認知など脳の高次機能に必要であることから、ヒトの精神疾患のいくつかも神経突起の刈り込み異常がかかわっている可能性があると述べています。
現在、生物の脳の仕組みを模倣することで、より高度なAIを開発する試みが行われています。
もしかしたら未来のロボットに搭載されるAIのニューラルネットも、右脳と左脳のような大きな区分を持つものが一般的になるかもしれません。