両生類で唯一の「花粉媒介者」となる可能性
アマガエル科の一種である「ゼノハイラ・トルンカタ(以下、X. トルンカタ)」は、ブラジル南東部リオデジャネイロ沿岸域の固有種で、植物の種子や果実を食べる世界で唯一の両生類とされています。
カエルのほとんどは肉食性で、小さな昆虫を食べており、植物を偶発的に口にすることはあっても意図的に食べることはありません。
しかし2000年代初めの研究で、ゼノハイラ・トルンカタの体内から植物が検出され、議論を引き起こすことになりました。
そして調査の結果、この種は種子や果実、花を常食し、昆虫を食べることはほぼないことが特定されたのです。
一方でこれらの観察研究はすべて実験室内でのことでした。
そこで研究チームは、リオデジャネイロの沿岸部にある熱帯雨林のレスティンガ(Restinga)でフィールドワークを実施。
すると、温暖な日の夕方頃になるとX. トルンカタが蜜の豊富な植物に集まり、花の蜜を5〜15分ほど吸い続けていたのです。
蜜を吸うときは決まって頭を花の中に突っ込み、お尻と脚だけが外にはみ出している状態でした。
研究者らは、観察したカエルたちが花の中から顔を出した際に、鼻先や頭部、背中の辺りにたくさんの花粉が付着していることに気づきました。
そしてカエルたちは、その足で次の花の蜜を吸いに移動していったのです。
このことから、X. トルンカタは花から花へと移動する中で受粉を媒介している可能性が示されました。
ブラジル・カンピーナス州立大学(UEC)の両生類学者で同チームのルイス・フェリペ・トレド(Luis Felipe Toledo)氏は「本種の行動が驚きなのは、今までに受粉を媒介する両生類の例が一つも知られていないからです」と話します。
長年の研究で、昆虫の他に鳥類や爬虫類、小型の哺乳類の中には受粉の媒介者がいることが分かっていますが、カエルを代表とする両生類では一例も見つかっていません。
X. トルンカタがうんちの排泄を通して植物の種子をあっちこっちに運んでいることは明らかでしたが、今回、受粉の媒介者である可能性が示唆されたことで、世界で最もユニークなカエルの一種となりました。
一方で、X. トルンカタを花粉の媒介者をみなすのは時期尚早であるとの意見もあります。
本研究には参加していないパウロ州立大学(PSU)の植物学者フェリペ・アモリム(Felipe Amorim)氏は「カエルと植物の相互作用についてはまだ未解明の部分が多い」と指摘。
その具体例として「本当にカエルによって運ばれた花粉で受精に成功しているのか、それから、カエルの皮膚粘液の成分によって花粉の受精能力がダメになっていないかどうかを調べる必要がある」と述べています。
確かに今のところは、カエルが花粉を運んでいることが分かっただけであって、それで実際に花が恩恵を受けているのかどうかは不明です。
加えて、X. トルンカタがなぜ昆虫ではなく植物を好むようになったのかも分かっておらず、研究課題の一つになっているという。
それでも花粉まみれの顔を別の花に突っ込んでいるのであれば、受粉を媒介している可能性は大です。
研究チームは今後、X. トルンカタが受粉媒介者の仲間入りをしたことを確認すべく、これらの課題の解明に取り組むとのこと。
それと並行して、本種はすでに絶滅の危機に瀕しているため、生態をより詳しく理解することで、保護活動にも繋げていきたいと話しています。