脳腫瘍は脳の神経接続を自分好みに作り変える能力がある
古くから、脳に腫瘍ができると、認知機能や運動機能をはじめとしたさまざまな機能障害が発生することが知られています。
症状の悪化が進むと、この機能障害は呼吸機能のような生命維持システムにも障害が及び、最終的には死に至ります。
これまで、脳腫瘍に起因する脳機能障害は主に、腫瘍による脳の圧迫や血液の横取りなど構造的な問題であるとされてきました。
しかし近年の研究により、脳腫瘍の中でもよくみられる悪性神経膠腫には、脳内の健康なニューロンと神経接続を起こし、相互作用を与え合うことがわかってきました。
私たちの認知機能や運動能力などが脳細胞のネットワークによってうみだされていることを考えると、悪性神経膠腫との予想外の接続は、ネットワークを改変し、さまざまな脳機能に影響を与える可能性があります。
そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは悪性神経膠腫の存在が、私たちの脳のネットワークにどのような変化を与えるかを調べることにしました。
ただ腫瘍による圧迫や血液の横取りなどと違い、神経接続パターンの変化は検知するのが困難です。
そのため研究者たちは、患者たちの意識がある状態で悪性神経膠腫の表面に電極を刺し込み、目の前に提示された物や動物の名前を答えてもらう、言語機能のテストを行いました。
すると、言語能力と関係のない位置にある悪性神経膠腫でも、言語テストに反応して活発な電気活動が観察されました。
(※言語テストでは通常、言語能力に関係のある脳部位の電気活動が活性化します。そのため言語能力と関係のない脳領域にできた悪性神経膠腫は、言語テストで活性化しないと考えられていました)
同様の結果は脳磁場の測定でも明らかになりました。
脳磁場を調べると、あるある脳領域が他の脳領域とどのように連動しているかを調べることが可能になります。
研究者たちが患者たちの脳磁場を調べたところ、悪性神経膠腫は多くの脳領域のと連動し、健康な人の脳では連動しない部分でも、活性化していることが示されました。
また患者の脳から切り取られた悪性神経膠腫を分析し、活性化している遺伝子を調べたところ、悪性神経膠腫ではシナプスの結合を促進する「TSP1」と呼ばれる分子が多く生産されていることがわかりました。
この結果は、悪性神経膠腫は脳の神経接続を作り直して、脳のさまざまな部位との結合性を高めていることを示します。
そうなると気になるのが、その理由です。
悪性神経膠腫はいったいどんな目的で、脳のあちこちと結合していたのでしょうか?