脳腫瘍は「脳の電気信号」を吸い取り増殖エネルギーにする
なぜ悪性神経膠腫は脳のさまざまな部位と結合しているのか?
謎を解明するため研究者たちは摘出された悪性神経膠腫の中で結合性が高かった領域を脳オルガノイドに移植してみることにしました。
脳オルガノイドは人工的に培養された脳細胞の塊であり、本物の脳の代替品として薬などの副作用の調査に用いられています。
すると移植された悪性神経膠腫は脳オルガノイドの結合性を飛躍的に高め、脳オルガノイドの活動も活発化しました。
また悪性神経膠腫の結合性の高い部位をマウス脳に移植したところ、シナプス結合を促進させる「TSP1」が高発現し、悪性神経膠腫とマウス脳の接続性が増強されることが示されました。
さらに興味深いことに、悪性神経膠腫とマウス脳の接続性の強化は、悪性神経膠腫の成長速度を増加させることが判明します。
同様の結果は患者たちの脳磁場の測定結果からも得られました。
患者たちの脳内の悪性神経膠腫と他の脳領域との接続性の高さを、患者たちの生存期間と比較したところ、接続性が高い患者ほど腫瘍の悪影響が強く出て、余命が短くなっていました。
この結果は、悪性神経膠腫は脳のさまざまな部位と接続して脳の活動エネルギー(演算能力とも言える)を吸い取り、自らの増殖のためのエネルギーに変換している可能性を示します。
これまで悪性神経膠腫による脳機能の低下は圧迫や血液の横取りなどが原因だと考えられていましたが、脳の活動エネルギーを吸い取られることが主な要因だった可能性が示されました。
(※腫瘍のある場所と無関係の脳機能が低下することがあるのも、腫瘍から腕が伸びて遠くの脳領域から脳のエネルギーを吸い取っているからだと解釈できるでしょう。)
なお悪性神経膠腫が吸い取っているエネルギーは主にニューロンの間を駆け抜けている電力だと考えられます。
生命の細胞は有機電子回路と解釈することが可能であり生命活動にともなうエネルギーは最終的に電力として換算することが可能となっています。
(※悪性神経膠腫は自分を電力の終着点とすることで、エネルギーを受け取っているのです)
高度な思考を行うときなど、人間の脳では活発な電気活動がみられますが、皮肉なことに、脳の活動が盛んであればあるほど、腫瘍のエサになってしまうエネルギーも増えてしまうようです。
研究者たちは、悪性神経膠腫がシナプス結合を増やすために使っている「TSP1」を何らかの方法で抑制できれば、脳腫瘍が他の部位に腕を伸ばすのを阻止し、エネルギー吸収を邪魔できると述べています。
また将来的には、脳と腫瘍の間で行われる電気信号の解読も解読することも重要となるでしょう。
脳と腫瘍の間の接続は必ずしも一方通行ではなく、何らかの情報通信を行っていると考えられるからです。
もし解明が進めば、脳と腫瘍の間で行われているささやき声を読み解き、治療に役立てることも可能になるでしょう。