どうして皮膚は「透視」できないのか?
私たちの体は頑丈な皮膚に覆われており、その奥を透かし見ることはできません。
表に現れている太い血管などは見えますが、骨や筋肉の繊維の一本一本を見ることは不可能です。
これにはれっきとした物理的な理由があります。
私たちの皮膚は、液体やタンパク質、脂肪といった様々な物質がぎっちりと密に詰まった状態にあります。
そしてこれら液体・タンパク質・脂肪などは光を曲げる屈折率がバラバラです。
具体的には、体液の水溶性部分は屈折率が低く、タンパク質や脂肪の部分は屈折率が高くなっています。
こうした屈折率の違いが光を皮膚上で散乱させることで、不透明な状態となるのです。
皮膚を透明にするアイデア
しかしこの物理的な仕組みは逆に「光の屈折率を一致させれば、皮膚を透明にできる」ことを意味しているかもしれません。
そこで研究チームはこんな仮説を立ててみました。
「生きた皮膚に光を強く吸収する染料を染み込ませれば、皮膚全体の屈折率が一定に近づいて、光を散乱させずに中身を透かし見ることができるのではないか」
このアイデアをわかりやすくイメージ化したものがこちらです。
このアイデア実現のためにチームはまず、マウスの皮膚組織と光の相互作用を様々に変える化学物質を調べ、いくつかの候補をピックアップ。
その中から、スナック菓子やシロップの食用着色料として一般的に使われている「タートラジン(通称・黄色4号)」が最良の候補として選ばれました。
研究者によると「タートラジンは光を吸収する強い性質を持ち、水に溶かすと、その水がまるで脂肪のように光を曲げた」という。
つまりタートラジン溶液を皮膚に染み込ませると、液体部分と脂肪部分の屈折率が一致して透明化が期待できるのです。
チームはこの実証テストを行いました。