どのキノコも周囲の環境より冷たくなっていた
研究主任のラダメス・コルデロ(Radamés Cordero)氏とアルトゥーロ・カサデヴァル(Arturo Casadevall)氏は、コロナパンデミックが流行し始めた時期に森の中を散策しながら、研究のために新たに導入したサーモグラフィーを試していました。
これは赤外線で撮影した物の温度を画像として記録できるカメラ型装置です。
両氏はこの装置を使って、一部の菌類に見られる黒い色素が表面温度にどんな影響を与えるかを調べていました。
しかし散策中に遭遇した約20種類の野生キノコを撮影したところ、黒色色素に関係なく、すべてのキノコが周囲の環境よりも温度が明確に低いことを発見したのです。
他の草木はサーモグラフィーで見ると、熱を吸収して真っ赤になっていましたが、キノコは常に全体が真っ青だったといいます。
研究室で追加調査してみると、毒キノコとして知られるテングタケ属の一種などは周囲より1〜2℃低いくらいでしたが、食用としても人気なヒラタケ(学名:Pleurotus ostreatus)は6℃近くも低くなっていました。
さらに野生下のキノコだけでなく、ペトリ皿の上で培養した酵母やカビを含む19種類の菌類も、特にコロニーの中心付近が周囲より低温になっていたとのことです。
なぜキノコは冷たいのか?
キノコが周囲より冷たくなる理由について、両氏は「キノコの水分量と熱の放出量に関係がある」と指摘します。
キノコは水分をたっぷり含んでおり、フライパンで炒めると水分が外に出て、勢いよく縮むことはご存じでしょう。
これは私たちが夏場に汗をかいて体を冷やすのと同じように、キノコの体温を下げるのに役立っているのです。
それからキノコは体積あたりの表面積が大きいため、熱の放出量が自然と多くなります。(これは菌類のコロニーでも同じだという)。
これは私たちヒトを含むあらゆる動物に当てはまり、「表面積が大きい=熱を逃すための窓が大きい」ということですから、体内の熱が外に放出されやすくなるのです。
なので赤道近くに住む人々にはよく見られますが、痩せ身で手足が長いほど体重に対する皮膚面積が広くなるので、暑さに強くなります。
キノコの多くはまさに暑さに強い体型の持ち主なのです。
またコルデロ氏は「キノコの傘の裏側にある複雑なエラ構造も表面積を大きくし、冷却効果を高めるのに貢献している」と指摘します。
キノコを使った保冷装置を試作
さらに両氏は、一般的なマッシュルームを使った簡易式の保冷装置も試作してみました。
まず、小さな発泡スチロールの梱包箱にマッシュルーム0.5キロを入れて、側面に2つの空気穴を開けます。
その一方にコンピューター用の小さな換気扇を取り付けて空気を送り込みながら、より大きな発泡スチロールの箱の中に入れます。
これを室温37℃の環境で40分間放置したところ、大箱の中の温度が10℃も下がり、その効果は30分ほど続きました。
換気扇によって流れ込んだ暖かい空気がキノコを介した蒸発冷却によって冷やされ、その冷えた空気がもう一方の穴から外に出ることで箱の中も冷えるようです。
カサデヴァル氏は「これで水を凍らすようなことはできませんが、ピクニック用のお弁当やペットボトルを冷やしておくことは可能でしょう」と話しています。
一方で、菌類自身が周囲より冷たくなることでどんな恩恵を受けているのかは分かっていません。
ただ研究者は、菌類は地球上のバイオマスの約2%を占めており、その蒸発作用が地球の低温化に寄与している可能性はあると述べています。