「コーヒーに塩を入れる」のは狂人的?それとも素晴らしいアイデア?
こんなツイートがアメリカで話題になったようです。
A tiny pinch of salt in black coffee removes the bitterness almost entirely. I thought this was common knowledge until my coworker looked at me like I had horns for doing this the other day https://t.co/F2M64KC7OY
— The Artist Formerly Known as Steve Pretzel (@BirdRespecter) April 24, 2023
このツイートでは「ブラックコーヒーにほんのひとつまみの塩を入れると、苦味がほとんどなくなることを常識だと思っていたけど、先日同僚に奇妙な目で見られた」といった内容が書かれています。
リプ欄では彼の同僚と同じく、彼のコーヒーの飲み方をおかしいと感じている人が多いようです。
しかし、「コーヒーに塩を入れる」こと自体は、最近考案されたアレンジレシピというわけではありません。
コーヒーの原産地であるエチオピアに昔から存在する伝統的な嗜好だったのです。
では、この彼が述べる通り、塩を入れると本当にコーヒーの苦味が軽減されるのでしょうか?
実は、この効果は科学的に証明されています。
アメリカのモネル化学感覚研究所による1997年の研究では、塩味が他の味覚を増幅させたり、抑制したりすると発表されています。
この実験では、砂糖や塩、尿素(苦味を持つ)を含んだ飲み物が準備されました。
そしてこの飲み物を与えられた参加者は、苦味や甘味の程度を評価しています。
その結果、塩の添加によって、甘味は増加し、苦味は低減するという結果が得られました。
「塩による甘味の増加」に関しては、似た事実として「スイカに塩」のような報告も古くから見られます。
最近では岡山大学が、薄い塩水が甘みを引き起こす原理について研究を報告しています。
同様に、「コーヒーに塩を入れると苦味が減る」という話も、この研究が示した「塩による苦味の低減」から事実であると考えて良いようです。
加えてコーヒーに塩を入れると、苦味だけでなく酸味も和らぐとされています。
ただ現段階では、塩がどのように苦味を抑えているのか、科学的には完全に解明されていません。
予測として考えられている理由の1つは、苦味物質と塩分が同じ味覚受容体に結合するという仮説です。
花粉症の抗ヒスタミン薬のように、塩分が苦味受容体と結合することで、苦味成分が結合することをブロックするというのがこの考えです。
また塩分の味覚自体が強いため、わずかでも苦味の刺激を覆い隠してしまうという仮説もあります。味覚の神経シグナル同士の相互作用が関係するというもっと複雑な仮説もありますが、いずれにせよはっきりしたことはわかっていません。
しかし、このレシピはエチオピア以外でも楽しまれており、同じくコーヒーの生産地であるインドでは、大量のミルクと砂糖、そしてひとつまみの塩を入れたインディアンコーヒーが飲まれています。
コーヒーを古くから親しんでいる地域では、経験的に酸味や苦味の強いコーヒーが苦手な人は、塩をひとつまみ追加することで、マイルドでやわらかい味わいを楽しめることが知られているのです。
大量の砂糖で苦味をごまかすより、ひとつまみの塩で苦味をごまかす方が健康的かもしれません。
ちなみに筆者も濃いめのコーヒーを作り、ブラックコーヒーと塩入りコーヒーを飲み比べてみました。確かに塩入りコーヒーでは、飲んだ後の舌に残る強い苦味が緩和されており、後味がスッキリしたように感じました。
ポイントは塩が「ひとつまみ」であることのように思えます。
ひとつまみの塩であれば、しょっぱさを感じることもなく、コーヒーの苦味だけを軽減できるようです。
塩入りコーヒーの効果を扱ったジェームズ・ホフマン氏のYouTube動画のコメント欄には、「(塩入りコーヒーを)試してみると、控えめに言っても衝撃を受けました」といった感想が並んでいます。
簡単に検証できることなので、興味を持った人は一度試してみるといいでしょう。
ぜひ、苦すぎるコーヒーを淹れてしまった際には、少量の塩の追加を試してみてください。