個人の意思や経済状況を尊重した社会づくりへ
現在、多くの国々で年金支給の開始年齢の引き上げや、高齢者の就労継続の支援が進んでいますが、今回の研究結果は「働き続けることが必ずしも健康にはつながらない」ことを示唆しています。
この結果を受けて、研究者は次のようにコメントしました。
「これまで高齢者の就労継続は健康に良いものと信じられてきました。
しかし今回の研究によって、引退した人の方が働き続けている人に比べて心疾患リスクが低いことが初めて明らかになりました。
この結果は、引退によって仕事のストレスから解放されることや、運動する時間が増えることと整合的です。
ただ私たちは、意欲のある高齢者が働き続けることを否定するつもりはありません。
高齢化が進展する中で、高齢者が働き続けられる環境を整備することは重要ですが、同時に運動などの健康づくりも大切になってくるでしょう」
この話は政治的な問題が大きく関係することであり、今回の研究報告は私たちの間でも多様な議論を呼ぶと考えられます。
例えば、仕事を続けるか否かは、個々人の意思や経済状況によって様々です。
こちらの表は、内閣府による令和2年度の「高齢者が仕事をしている理由」をまとめたものになります。
これを見ると「収入が欲しいから」「仕事そのものが面白いから」「老化を防ぐため」「友人や仲間が得られるから」など様々な理由があります。
仕事を続けたい高齢者にはそのまま就労継続を支援すべきでしょうが、しかし中には、引退したくても貯蓄がないので、生活していくためにどうしても働き続けなければならない方々もたくさんいるはずです。
こうした個々人の意思や経済状況、さらには健康状態も踏まえて、各人の望みが尊重されるような社会づくりが必要となります。