仕事の引退により「心疾患」と「運動不足」のリスクが低下
先行研究の多くは、高齢者の就労継続が健康に良いことを指摘していました。
高齢者の主な死因の一つ心疾患について、ヨーロッパの研究では「就労継続により心疾患リスクが下がる」という報告もされています。
しかし一方で研究によっては、働き続けることと心疾患リスクの間に明確な関連性は見られないと報告しており、一貫した結果が得られていません。
こうした結果にばらつきが生じる背景には、調査が行われた国の違いがあったり、また「もともと健康な人ほど仕事を続けやすい」というバイアスが考慮されていない点が原因の可能性があります。
そこで研究チームは今回、日本を含む35カ国のデータを使用し、バイアスの問題を踏まえながら、仕事の引退が心疾患リスクに与える影響を調べました。

研究では、35カ国に暮らす50〜70歳の10万6927人を平均6.7年にわたり追跡したデータを分析しました。
対象とした国には、日本やアメリカ、ヨーロッパ諸国の他に、メキシコ、コスタリカ、中国、韓国などが含まれています。
分析では、先の「もともと健康な人ほど仕事を続けやすい」というバイアスを踏まえつつ、個人の性別や遺伝子、各国の医療制度や労働市場の違い、社会・経済状況の時系列トレンドなどの影響まで考慮しました。
その結果、仕事を引退した人は、働き続けている人よりも心疾患リスクが2.2%ポイント低くなることが世界で初めて明らかになったのです。
また引退した人は、身体不活動(中高強度の運動の頻度が週1回未満)、いわゆる運動不足のリスクが3.0%ポイント低いことも示されています。
中高強度の運動とは、エネルギー消費量が安静時の3倍以上になる運動のことで、例えば、やや速歩きのウォーキングや階段の上り下り、自重を使った軽い筋トレなどが相当します。

引退と心疾患リスク低下の関連性は男女ともに見られましたが、特に女性の間では「引退すると喫煙率が低くなる」という関連性も確認されました。
それから教育年数が高い男女では、引退した人の方が脳卒中や肥満、身体不活動のリスクが低くなっています。
加えて、職場がデスクワークだった人の間では、引退した人の方が心疾患や肥満、運動不足のリスクが低い傾向にありました。
一方で肉体労働者の間では、引退した人の方が肥満リスクが高くなる傾向にあったようです。



























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