「145万年前のカニバリズム」古代人類はお互いを食べていた
あまり認めたくない事実ですが、人類は古くから食人を繰り返してきました。
先史時代の人類遺跡から発見された骨の多くには、肉を骨からこそぎ落す過程でつけられたと考えらる傷跡が存在していることがわかっています。
同様の食人行為は人類の近縁とされるネアンデルタール人や他のホモ属にも確認されており、人類の進化系統樹に存在した種たちは、栄養を得るために互いに食べ合っていたと考えられています。
ただ食人行為が行われた目的は必ずしも食肉処理のためではなく、儀式的なものも含まれていたと考えられています。
儀式目的でも肉を骨からそき落とした痕跡が残されていますが、それらの痕跡は食料目的につけられた場所と根本的に異なります。
しかし今回、スミソニアン博物館の研究者たちは145万年前の古代人類の化石は、1つの明確な目的を示す痕跡が刻まれていました。
発見のキッカケは博物館に収容されていた化石の再評価でした。
研究者のポビナー氏は当初、博物館に収容された化石を調べ、古代人類がサーベルタイガーなど古代の捕食者に食べられた手掛かりを探していました。
すると145万年前のヒト属の「スネの骨」に、鋭利な刃物で刻んだかのような複数の傷跡があることに気付きます。
過去に行われた研究では、このような鋭利な傷跡は肉を骨から剥がすときにつけられた痕跡であると報告されています。
しかし多くの報告は比較的最近といえる数十万年前のものであり、骨のほとんどはネアンデルタール人か私たちホモ・サピエンスのものでした。
145万年前にはネアンデルタール人もホモ・サピエンスも存在していないため、事実ならばさらに古い人類種による最古の食人痕跡となり得ます。
(※1976年に南アフリカで発見された150万年から260万年前の頭蓋骨の傷は石器によるものであるとする説と、自然についたものであるとする説の両方が主張されています)
そのためポビナー氏らは結論を下すには慎重さが重要だと考え、化石に刻まれた傷の3Dスキャンを行い、分析結果を大規模なデータベースと比較しました。
このデータベースには898種類の動物の歯、屠殺、踏みつけなどさまざまな方法で骨につけられた後が記録されており、ポビナー氏の発見した145万年前の化石の傷が何によってつけられたかを知ることができます。
結果、11個の痕跡のうち9個が「石器」による痕跡と一致していることが判明。
また残りの2カ所はライオンに代表される大型のネコ科の動物によるものであることがわかりました。
さらに石器による痕跡とされた9カ所を詳しく調べると、全ての傷が同一の方向から立て続けに刻まれており、傷の位置も「スネの骨」から柔らかい「ふくらはぎ」の肉を切り取るのに最適な位置にあったことがわかりました。
同様の痕跡パターンは、石器を使って動物の骨から肉をはぎ取るケースに多くみられます。
そのため研究者たちは「145万年前の骨の持ち主は石器を扱うヒト属によって食べられた可能性が最も高く、食べられた目的も儀式などではなく、純粋な栄養補給のためであった」と結論しています。
しかしそうなると気になるのが、145万年前の骨の持ち主はいったい誰で、どの種によって食べられたのか、という点です。
145万年前のスネの骨が発見された当初、骨はアウストラロピテクス・ボイセイのものだと考えられていましたが、1990年代の調査ではホモ・エレクトスとして再分類されました。
ただ現在の見識では種を特定するのに十分な情報が不足していると考えられており、あくまで予測にすぎません。
またどの種が骨に傷を刻んだかについても、不明でした。
現在ではヒト属はホモサピエンス以外存在しませんが、145万年前には石器を扱える古代人類種が複数存在していたからです。
しかし、ネアンデルタール人やホモ・サピエンスが登場するはるか以前から、ヒト属は食人行為を行っていたのは確かなようです。
研究者たちは今後、他の人類化石の痕跡についても同じ分析手法を行い、食人習慣の歴史を解明していく、とのこと。