人工細胞は自然細胞よりも早く進化できる
必要最低限の遺伝子しか持たない人工細胞「JCVI‐syn3B」も進化できるのか?
謎を解明するため研究者たちは人工細胞を栄養素が貧しい厳しい環境に置き300日間、2000世代に渡って培養を続けました。
(※2000世代は人間で言えば4万年に匹敵します)
結果、最小限の遺伝子しか持たなくても、元となるM・ミコイデスに見劣りしない高い変異が起きていると判明します。
また環境への適応力が2倍に増加しており、元となるM・ミコイデスに匹敵するレベルに回復していることがわかりました。
半数近い遺伝子の喪失により人工細胞の適応力は53%低下していましたが、2000世代におよぶ進化は失われていた体力を遺伝子喪失前の状態に取り戻すことに成功していたのです。
実際、進化後の人工細胞と進化前の人工細胞を同じ培養液内で生存競争をさせてみたところ、進化後の人工細胞が優勢となりました。
また同じ条件で進化させたM・ミコイデスと比較したところ、人工細胞のほうが適応度の進化速度が39%速いことが明らかになりました。
この結果は生物としてやっていける最低限(500個)の遺伝子しか持たない人工細胞も進化が可能であるだけでなく、適応力の進化速度はより速いことを示します。
さらに2000世代による進化によって変化した遺伝子を調べたところ、いくつかは細胞表面の構造に関与しているものでした。
特に細胞分裂と形態を調節するチューブリン相同タンパク質「ftsZ」はM・ミコイデスと人工細胞の両方の進化において共通の変異が起きていたことが判明します。
一方、他の多くの変異は機能不明の遺伝子に起きていました。
DNA解析技術が進歩した現在であっても、機能が判明している遺伝子は限定的であり、多くの遺伝子の機能がわからないままになっています。
研究者たちは今後、最小限の遺伝子がどのように変化していくかを調べることで、生命の起源となる存在がどんな遺伝子を持っていたかを調べられると述べています。
また遺伝子のシンプルさに関係なく進化できるという事実を理論的、数学的に理解することは、将来の合成生物学や進化実験において最適な人工生命を創造するにあたり非常に有用となるでしょう。
さらに、どんな環境条件がどの遺伝子を変化させるかを調べることで、進化の基礎的な文法を理解できるようになるかもしれません。