最低限何個の遺伝子があれば生物になるのか?
生命の複雑さは、その生物が持つ遺伝子の数にある程度関連します。
単純な細菌などでは数千個の遺伝子しか持ちませんが、植物や動物の遺伝子数は20,000を超えることもあります。
しかし最近の研究では、数千個しかない遺伝子の中にも、生存にとって必ずしも必要がない遺伝子が多数含まれていることがわかってきました。
たとえば抗生物質を無効化する耐性遺伝子や、他の細胞と通信を行う仕組みなどは、あれば便利ですが、生存するだけならば必要ありません。
最低限何個の遺伝子があれば生物になるのか?
2016年に行われた研究では、この疑問を解明する研究が、寄生性細菌「M・ミコイデス(マイコプラズマ・ミコイデス)」をもとに行われました。
寄生性の生物は一般に、寄生生活が長くなる細胞内部の機能をどんどんパージ(捨て)てしまうようになります。
必要な栄養素は全て宿主から吸収すればよく、無駄な機能を捨てることが生き残る上での効率化になるからです。
またパージの影響は遺伝子にも及び、捨てられた機能にかかわる遺伝子も失われ、寄生生物たちの遺伝子もスリム化させていきます。
そのため研究者たちが目を付けた寄生性細菌は最低限必要な遺伝子の厳選がある程度進んでいる生物だと言えるでしょう。
実際M・ミコイデスも長い寄生生活のなかで多くの遺伝子を失い、総数は901個まで減っていました。
同じ細菌である大腸菌が4000個の遺伝子を持つことを考えると、その少なさがわかります。
2016年に行われた研究ではこのM・ミコイデスの持つ901個からさらに遺伝子を削り取り、生物として必要な最低限度の遺伝子が幾つなのかが調べられました。
結果、45%の遺伝子を削ることに成功。
最終的には493個の遺伝子のみを持つ人工細胞「JCVI‐syn3B」が完成しました。
人工細胞は種独自の要素が全くない、ある意味で最もピュアな生物と言えます。
また人工細胞は実験室で増殖可能な生物のうち、最小のゲノムを持つ生物となりました。
しかし遺伝子を削りに削った結果、人工細胞には生命のもう一つの側面である「進化」ができるかが疑わしくなっていました。
人工細胞に残った493個の遺伝子はどれも生物としてやっていくために最低限必要な遺伝子であり、突然変異がおきて1つでも機能が失われれば、人工細胞は死んでしまいます。
ジェンガに例えれば人工細胞「JCVI‐syn3B」は極限までブロックを抜き取られた状態にあると言えるでしょう。
ですが今回インディアナ大学の研究者たちはあえて人工細胞「JCVI‐syn3B」に対して進化実験を行ってみました。
崩壊寸前のジェンガのようなバランスでなんとか遺伝的に成り立っている人工細胞でも、ここから進化が可能なのでしょうか?