「全ての動き」さらに「呼吸」まで停止させる脳回路を発見!
脳による体の制御は、動くこと、走ること、話すことなど動きにかんするものだけではありません。
狩猟犬が鹿の臭いを嗅いだ途端に、ピタリと動きを止めてしまうように、私たちの脳は一時的に全ての動きを止め、全神経を集中する仕組みも存在すると考えられています。
動作を実行することと動作を停止させることは、行動の制御という観点からはどちらも重要です。
しかしその仕組みが脳内のどこにあり、どんな指示系統で体に命令しているかは、ほとんど謎につつまれていました。
そこで今回、コペンハーゲン大学の研究者たちは、マウスの特定の脳細胞だけを活性化させる技術を使って、どの神経細胞が緊急停止に関与しているかを調べることにしました。
調査にあたってはまず、マウスの脳細胞の遺伝子を操作し、光を照射された脳細胞だけが活性化するようにし、続いてマウスの頭蓋骨に穴をあけ、光ファイバーを挿入しました。
この方法は「光遺伝学的手法」と呼ばれており、光のオンオフで脳細胞の活性を制御可能になるため、従来のように脳に直接電極を刺し込み電気刺激をするよりも、体への負担が少なくなります。
結果、マウス中脳の脚橋核(きゃくきょうかく:PPN)と呼ばれる部位に存在する、特定の脳細胞(Chx10を目印に持つ)を活性化したときに、マウスの動きを急停止させられることが判明しました。
また興味深いことに、この脳細胞を刺激されているときのマウスの状態を詳しく調べたところ、体の動きに加えて呼吸も停止しており、さらには心臓の鼓動まで遅くなっていることが発見されました。
さらに脳細胞への光の照射を止めて活性化を中断すると、停止していたマウスの動作が再開することがわかりました。
上の動画では、歩いていたマウスの脳内に光を照射すると、突然マウスが立ち止まりピクリとも動かなくなる様子が示されています。
この結果は、PPNに存在する特定の脳回路は意識的な動作に加えて呼吸や鼓動など無意識的な動作にも影響を与える、極めて強力な「停止スイッチ」であることを示します。
研究者たちは「マウスたちに一時停止と動作再開を促す仕組みは非常にユニークであり、いままで見たことがない」と述べています。