一時停止が起こるとその後の動作も変わる
また一時停止と動作再開を繰り返してマウスの動きを分析したところ、一時停止は「時を止めたような本当の停止」とは異なっていました。
たとえば一時停止を挟んで動作再開させたマウスたちはしばしば、物事に対して新しい方法でのアプローチを行うこともありました。
この結果は、体や呼吸の動きが一時停止している間にも脳の活動は続けられていることを示しています。
また追加の研究でPPNによる一時停止と恐怖による「立ちすくみ」を比較したところ、脳内では全くの別経路だったことがわかりました。
つまりPPNによる停止と恐怖による停止は別の現象だったのです。
そのため研究者たちは、PPNによって制御される動作や呼吸の一時停止は、集中力や注意力、警戒心を増加させるための仕組みだと結論しています。
全ての体の動きと呼吸を止めることは、環境から自分の影響を排除し、周囲の様子をより中立的に観察することに繋がるからです。
実際、PPNに存在する停止機能にかかわる脳細胞の出力先を調べると、予期せぬ行動の感知、注意力増加、覚せいレベルの増加に関連する脳領域に繋がっていることがわかりました。
一時停止を起こしたマウスの脳内では、運動面と認知面の両方のパフォーマンスが向上し、運動再開後に最適な動作が実行できるように備えていたのだと考えられます。
研究者たちは、マウス脳に存在するPPNは脊椎動物に広く存在する脳領域であり、おそらく人間にみられる一時停止も同じ仕組みで起きている可能性があると述べています。
また今回の発見は、パーキンソン病の理解につながる可能性も秘めています。
というのも、運動の突然の停止はパーキンソン病の主な症状の1つであるからです。
この症状をもつ患者は特に注意を必要とするような状況でなくても、動さが突然止まってしまうことがあり、円滑な作業が困難になってしまいます。
研究者たちは、パーキンソン病の患者では脳の状態が変化し、PPNが過剰に活性化されてしまっている可能性があると述べています。
もしPPNの脳回路を自由に活性化したり抑制したりできる薬が開発されれば、人々の集中力を高めたり、パーキンソン病の主要な症状の1つを緩和することができるかもしれません。