アンモナイトを丸呑みしたのはどんな魚?
この不幸な魚の化石はドイツの「ポシドニア頁岩(けつがん)」と呼ばれるジュラ紀初期の地層を留めた場所で発見されました。
年代は約1億8200万〜1億7400万年前で、化石は「パキコルムス・マクロプテルス(Pachycormus macropterus)」という種類の魚でした。
パキコルムスは、ジュラ紀初期に存在した魚類のグループで、最初の化石は1818年に発見されています。
主にドイツ、フランス、イギリスの海洋堆積物から化石が出土しており、全長は最大で1メートルに達しました。
パキコルムスは条鰭類(じょうきるい)というヒレのある硬骨魚類の仲間であり、見た目も現代の大型魚とそう変わりません。
条鰭類は約4億年前のシルル紀後期に出現して以来、多種多様な進化を遂げ、現代では最も繁栄する魚類の一群となっています。
現生魚の大部分がこれに属し、マグロやイワシ、サバなど、私たちが日常的に知っている魚のほとんどは条鰭類です。
アンモナイトの丸呑みから昇天するまで
今回、研究チームが新たに見つかった化石を調べた結果、パキコルムスの腹部にさまざまな獲物が含まれていることが判明しました。
現代のイカやコウイカに似た軟体動物や、その他の小型魚の痕跡が見つかっています。
しかし最も目を引いたのは、パキコルムスの餌としてはデカすぎるアンモナイトの遺骸でした。
アンモナイトの直径は約10センチで、消化された痕跡がなく、魚はアンモナイトを飲み込んだ直後に死んだことが示唆されています。
研究チームはパキコルムスがアンモナイトを丸呑みしてから昇天するまでのプロセスを次のように推測しました。
まず、パキコルムスは餌としてアンモナイトを意図的に食べたのではなく、食べられる餌と勘違いしたか、何らかの偶然の出来事から口の中に入ってしまった可能性が高いという。
こんな危険なものを日常的に食べるのはギャンブルに近いです。
パキコルムス自身も飲み込む前にこれが本来の餌ではないと理解していたかもしれませんが、口内に入りきった段階からアンモナイトを吐き出すことはできず、そのまま飲み込むしかなかったのでしょう。
そしてこのアンモナイトが腸につながる狭い通路を塞いだことで、うっ血あるいは内出血を引き起こし、パキコルムスは数分から長くても数時間以内に命を落としたと考えられます。
その後、昇天した魚は音もなく海底に沈んでいき、泥層の中に埋もれて化石化しました。
この一連の流れを絵にしたのがこちらです。
一方で、飲み込まれたアンモナイトも災難ではありましたが、化石化するにはかなりの好条件が整いました。
魚の体内に封じ込められたことで、外部環境からの化学的な溶解や腐食が抑制され、きわめて精巧な状態で保存されたのです。
あとは泥の層が長い年月をかけて圧縮されて化石化し、不幸な魚の物語を今日に伝えるタイムカプセルとなりました。
研究者らは今回の化石について「絶滅したパキコルムスが最後の晩餐によって死亡した事例を初めて記録したもの」と指摘しています。
この魚がどうしてアンモナイトを口にしてしまったのかは不明ですが、研究者はこの魚が普段から腐ったアンモナイトを食べていた可能性もあり、これまで考えられてきたよりアンモナイトが硬骨魚の餌となるパターンは多く存在したかもしれないと話しています。