魚の背後に隠れると獲物が逃げなくなった!
ヘラヤガラ(学名:Aulostomidae)は、インド太平洋〜大西洋にかけて広く分布するトゲウオ目の魚です。
最大80センチになる体は笛のように細長く、学名はギリシア語で”フルートのような口”を意味します。
ちなみにヘラヤガラの英名は「トランペットフィッシュ(trumpetfish)」です。
温暖な海のサンゴ礁や岩礁で暮らし、小魚や甲殻類を主食としています。
ヘラヤガラは以前から、自分より分厚い中〜大型の魚に寄り添って泳ぐ習性が知られていました。
しかし、その行動の真意は不明であり、魚類学者にとって大きな謎となっていたのです。
そんな中、研究チームはこの行動について「獲物にバレないように近づくためのカモフラージュ行動なのではないか」と考えました。
そこで今回、カリブ海に生息するヘラヤガラ、草食の大型魚であるブダイ、ヘラヤガラの獲物となるスズメダイを対象に調査を開始。
実験では、ヘラヤガラとブダイのリアルな模型を3Dプリントで作成し、海中に張ったワイヤーに通す形で、本物のスズメダイのコロニーの上を通過させてみました。
まずブダイの模型を通過させた場合、スズメダイたちは食べられる心配がないため、その場から逃げることなく、ブダイに対して何の反応も見せていません。
次にヘラヤガラの模型を通過させた場合、スズメダイの群れは天敵であるヘラヤガラを目視した瞬間、全員ですばやい逃避行動を取りました。
捕食者に気付けば、逃げるのは当然のことです。
そして最後に、ブダイの背後に隠れる形でヘラヤガラの模型をセットし、スズメダイのコロニーの上を通過させました。
すると驚くことに、スズメダイたちは天敵のヘラヤガラが接近しているにもかかわらず、逃避行動を一切見せなくなったのです。
この結果から、ヘラヤガラが他の魚に寄り添う行動には、獲物に気づかれずに接近できる効果があることが初めて実証されました。
ヘラヤガラは鬼ごっこのずる賢い鬼と同じ裏技を活用していたと考えられます。
またチームが調査地としたカリブ海の地元ダイバーに聞き込みを行ったところ、ヘラヤガラがカモフラージュ行動を取りやすくなるある条件が存在することが明らかになりました。