最も賢き問いをしたものが最も実りある答えを得る
現代の会話型AIは、驚かされることばかりです。
古いAIは人間の問いに対してしばしば支離滅裂な答えを返しますが、大規模言語モデルと言われる会話型AIは質問に対して、まるで人間のような適切な回答を生成することができます。
しかし最良の答えを得るには、AIへの「質問」や「命令書」も最適なものでなければなりません。
やや文学的な言い方をすれば「最も賢き問いをしたものが最も実りある答えを得る」と言えるでしょう。
ビジネスでAIを戦力として使う際には、質問や命令書の作成ノウハウは非常に大きな助けとなるはずです。
そのため近年では、AIから最良の答えを得るための方法論が大きな注目を持ち始めています。
ただ、これまで主流となってきたのは、かなり数学的な要素の強い「問いかけ」でした。
といってもAIとのチャット欄が全て数式で埋め尽くされるわけではありません。
ここで言う数学的とは、複数のルールや厳密な条件設定を駆使してプログラムのようなものを作り上げ、そのプログラムに従ってAIに答えさせるというものです。
またこの方法はAIが答えた内容について評価したものをさらにAIに入力するといった繰り返しを伴う「最適化」という作業が続きます。
この反復作業「最適化」を行うと、AIはさらに精度の高い答えを出力するようになります。
ある意味で最適化とはAIに対して徹底的な調教を行う方法と言えるでしょう。
ただプログラミングのような条件設定を行えるのはプログラムの知識を持った専門家だけです。
一方、chatGPTのようなAIは、そもそも自然な言語を対象に学習が行われています。
そこで今回DeepMind者の研究者たちは、自然な言語だけを使って「最適化」をAIと一緒に行う方法を考案しました。
たとえば、ある問題が与えられたとき、人間はその問題を解くために様々なアイディアや方法を考え出します。
しかしその過程は非常に抽象的で複雑です。
AIと一緒に行う最適化では、その複雑な過程をAIに手伝ってもらいます。
問題を自然言語、つまり私たちが普段使う言葉でAIに伝え、AIに解のヒントやアドバイスを求めるのです。
そして、そのフィードバックをAIに伝え、一緒に問題を解決していきます。
またこの方法ではAIに対して人間側が求める最終目的についても、自然な言葉で伝えられます。
加えて「質問のための質問(メタプロンプト)」のように、いくつもの問いかけと答えを俯瞰視点からながめるようなアプローチも含まれます。
これら作業は確かに面倒くさいかもしれませんが、プロ仕様の最適化と異なり、全て自然な言語で行われます。
すると驚くべきことに、AIの答えの精度はプログラマーたちが行った「最適化」に匹敵するだけでなく、場合によっては50%以上も優れたものになっていたことが判明します。
また「サラリーマンの巡回問題」のようなテーマを扱った場合には「地点Aを通る場合について答えて下さい」といった突然のリクエストに対しても、より柔軟な対応ができることが示されました。
この結果は自然な言語を扱うことを目的として作られたAIには、自然な言語でも十分な最適化ができることを示しています。
しかし最も興味深かった点は他にありました。
質の高い答えを得るには「AIを励ます」ような問いが非常に重要だったのです。