ランダムな手の動きを食べる前にしても効果がない
研究チームは、食事前の動作と食事にかける時間の要因を加味して、儀式的行動が食体験の満足度を高めるかを検討しています。
実験では、大学生105名を食事をするタイミング(早い vs 遅い)と食事前の行動(儀式的行動 vs ランダムな動き)の組み合わせによる4つのグループに分け、3つの人参を食べてもらいました。
実験の結果、食べる前に時間を置いた、また置かなかった場合にも、決まった手順でジェスチャーを行ってからニンジンを食べた人は、そうしなかった人と比較して、食事に高い満足を感じていたことがわかっています。
この結果は、食事前の動作はランダムな動きでは意味がなく、毎回決まった手順によって行わなければならないことを意味しています。
ではなぜ食事前の儀式的行動を取ることで食事の満足度や味の評価は高くなるのでしょうか。
研究チームは「食事に対する個人的な関わり」ではないかと考えています。
現象が生じる要因を探ったさらなる実験では、大学生40名を①レモネードをコップに半分だけ注ぎ混ぜ、30秒間待ってから飲む人と、②実験者が前述した手順でレモネードを飲むのを見て、真似る人の2つのグループに分け、レモネードの風味についての評価を行ってもらいました。
食事に対する関与度の高低を、儀式的行動を自分自らが行うパターンと他人の真似をするパターンを設けることで実験的に操作したのです。
実験の結果、他者の動きを真似した人と比較して、真似せずに自ら義式的な行動を行った人の方が、よりレモネードの風味が良いと評価したのです。
このことから、食べる前の儀式的行動は、食べる体験により多くの時間を割くことで、食べるものに対する「個人的な関わり」を増し、食事全体、味の評価を高めるのだと考えられます。
この結果を考慮すると、前述した「いただきます」以外に次のような場面での応用が考えられるでしょう。
オレオビスケットを食べるときに、ビスケットを2つに分け、牛乳に浸してから食べる、他にもおかきを袋に入れた状態で小さく小分けに割ってから食べるなど。
このように食事前の決まった手順を踏むことで、ただ食べるよりもより美味しく感じることができるかもしれません。
そう考えると、オレオのように決まった手順の食べ方をメーカーが提供してみせるのは、商品の評価を上げるために有効な手段なのかもしれません。
これは個包装のお菓子についても、同様の効果を持っている可能性があります。
剥き出しで積まれているお菓子を、ひとつをつまみ上げて食べるよりも、袋から個包装されたお菓子を取り、包み紙を破るまでの一連の決まった行動がお菓子の美味しさを高める可能性があるのです。
食事には面倒なマナーが伴う場合もありますが、そんな手順が広く共有されるようになった裏には、もしかしたら、その方が美味しく感じるという思いが共有されたからなのかもしれません。
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