難度の高いタスクには「怒り」を持って挑むべし?
研究チームは今回、1000人以上を対象に「怒り」が人々に与える影響を検証しました。
実験では、まず学生たちに「楽しみ・悲しみ・怒り・欲望」の感情を誘発する画像がランダムに提示されました。(これらの画像が特定の感情を誘発できることは過去の研究から示されている。またこれと別に、感情的に中立になるグループも用意された)
その状態で学生たちは、難易度の異なる一連のアナグラムを解いて、そこに隠された単語を見つけるよう指示されました。
アナグラムとは、単語または短文に含まれるアルファベットの並び順を入れ替えると全く別の意味の言葉が作れるパズルの1種です。
英語では、元の言葉と意味的に関連するようなアナグラムがよく作られます。
例えば、「天文学者(astronomer)」を並び替えると「月を見つめる者(moon starer)」に、「学生寮(dormitory)」を並び替えると「汚部屋(dirty room)」になります。
映画『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)でも、日記の中の人物であるトム・リドルが重大な秘密をアナグラムを使って明かすシーンが登場しています。
アルファベットはアナグラムを利用しやすいため、海外ではメジャーな謎解きなのです。
そのため研究では難易度を設定しやすい作業として、アナグラムの課題を参加者に取り組んでもらったのです。
結果、難度の低いアナグラムでは、感情の違いによってスコアに差は現れませんでした。
ところが難度の高いアナグラムでは、怒りの感情を抱いている学生ほどスコアが顕著に高くなっていたのです。
課題中の学生たちを分析してみると、怒りを感じている学生では、難しいアナグラムに取り組む時間が他の感情を抱く学生に比べて長くなっていました。
これを受けてチームは、怒りの感情が難問に対する「執念深さ」や「努力の持続性」を生み出している可能性が高いと述べています。
また別の実験では、学生たちにスキーのビデオゲームをしてもらい、各ポイントでジャンプをするだけの簡単バージョンと、旗を避けながらコースを進む(スラローム)難しいバージョンに取り組んでもらいました。
すると、簡単バージョンでは感情の違いによってスコアに差が出なかったものの、難しいバージョンではやはり怒りを感じていた学生の方がスコアが良くなっていたのです。
以上の結果から、目標達成における「怒り」の効果は、単純なタスクにおいては成功率との関連性は低いものの、難度の高いタスクにおいてはパフォーマンスを向上させ、成功率を高める可能性があると結論されました。
研究主任のヘザー・レンチ(Heather Lench)氏はこう話します。
「一般に人々は、ポジティブな感情の方が私生活や仕事に役立つと考え、ネガティブな感情は不適切で望ましくないものとみなす傾向があります。
しかし私たちの研究は、状況に応じてネガティブな感情(=怒り)を使用することで、より大きな成功をもたらすことを示すものです」
確かに私たちが家でゲームをしていても、難易度が上がるほど、怒りと共に執念深さが湧き上がって「何がなんでもクリアしてやる!」という気持ちになります。
怒りがヒーローに新たな力を目覚めさせるように、負の感情も使い方次第で私たちのパフォーマンスを上げてくれるのに役立つかもしれません。
これはゲームに限らず、仕事においても困難なタスクをこなす場合に役立つ可能性があります。
難しい作業には怒りを持って挑むと良いのかもしれません。
※この研究はあくまで困難なタスクへの対処について述べています。対戦など相手がいるゲームでは冷静な方が有利な可能性があるので注意しましょう。
研究の対象とする範囲に関して追記しました