人間は「AI」の作った画像を見抜けるのか?
AI(人工知能)の導入は、良くも悪くも社会に多大な影響を与えています。
AIのおかげで高精度なデータ分析や予測、労働力不足の解消、生産性の向上が期待できる反面、偽造の写真や動画を使ったフェイクニュースの拡散など、悪質な目的にも利用されています。
またAI技術は急速に進歩を続けており、AIの作った画像は本物にしか見えないクオリティに達しています。
その一方で、人々が本当に「AI」と「リアル」を見分けられないのかどうかを実証するテストはほとんど行われていません。
そこで研究チームは、今回の調査でそれを確かめることにしました。
白人の顔では「AI」と「リアル」の見分けがつかない
最初の実験では、アメリカ在住の124名の一般男女(18〜50歳)を対象に、「AIの生成した白人の顔」と「本物の白人の顔」の画像を100枚ずつ提示しました。
参加者はそれぞれの画像を見て、AIか本物かのどちらかに振り分けた後、その確信度を0(全く自信がない)〜100(完全に自信がある)の間で評価します。
その結果、AIの生成した白人の顔は本物の白人の顔よりも「本物」と判断される確率が有意に高いことが判明したのです。
本物の白人の顔について「本物」と判断される確率は平均して51.1%だったのに対し、AIの生成した白人の顔について「本物」と判断される確率は平均65.9%でした。
こちらの画像は上列が「本物と判断されやすかった顔ベスト5」で、下列が「AIと判断されやすかった顔ベスト5」です。そのどちらにもAI生成の顔と実際の人の顔写真が含まれています。
これを見ると驚いたことに、「本物と判断されやすかった顔」のトップ3はすべてAI生成画像であり、「AI生成画像と判断されやすかった顔」のトップ3は本物の人の顔写真でした。
チームはこれと別に、315名の一般男女を対象に、白人以外のアフリカ系やアジア系の顔も混ぜた同様の実験を行いました。
すると、興味深いことに、アフリカ系やアジア系を含む有色人種の顔では、AI生成画像を本物と判断する割合が減少したのです。
確かにAI生成の顔を「本物」と混同するケースも多くありましたが、その差は有意なものではありませんでした。
下のグラフは「AI生成の顔(紫)」と「本物の顔(オレンジ)」について、「本物の人間の顔(縦軸)」と答えられた割合を示したものです。
一番左の有色人種の顔を扱った実験では、「本物の人間の顔」と答えられた確率がほぼ同等であることが分かります。
対して、右2つの白人の顔を扱った実験では、AI生成の顔(紫)を「本物」と答える確率が明らかに高くなっていたのです。
どうして白人だと見分けられないのか?
この理由について研究主任のエイミー・デウェル(Amy Daewel)氏は「顔画像を生成するAIアルゴリズムが主に白人の顔に偏って訓練されているためだ」と説明します。
リアルな顔画像の生成には「StyleGAN 2」というAIが一般的に使われていますが、そのトレーニングに使用される画像サンプルは白人の顔が69%、その他の有色人種が31%となっているという。
そのため、AIは白人の顔を生成する能力に長けており、アフリカ系やアジア系の顔ではまだ彼らのリアルな特徴を掴みきれていないと考えられるのです。
以上の結果から、白人の顔に関してはもはや「AI」と「リアル」を見分けられないレベルにまで達していると結論できます。
また白人だけ本物との見分けがつかない原因はAIの訓練の偏りが原因と予測されているため、今後すべての人種でAI生成による人間の顔が見分けの付かないレベルに達する可能性があります。
AIはこうしている間にも急速に成長しており、世界中のあらゆる人種の顔を参考にしたトレーニングを続けています。
今はまだAIの生成した日本人やアフリカ人の顔に違和感を抱く人が多いかもしれませんが、そうした違和感はすぐになくなってしまうでしょう。
デウェル氏は「人間の目ではAIが作った顔を見分けられなくなっていることを考えると、社会の側がAIのニセ画像を正確に識別できるツールを実装しなければならないだろう」と述べています。