「そもそもビッグバンとは何なのか?」相転移の視点から解説
ビッグバンは宇宙の始まりではない
宇宙の始まりについて私たちの多くは「ビッグバンによって超高密度の「点」が爆発的に膨張して宇宙になった」と思っているでしょう。
実際、昔の子供向け科学雑誌にはしばしば、そのように記載されています。
しかし現在、ビッグバンは宇宙の始まりとは考えられていません。
現在の宇宙論では、まず超高密度の「点」であった宇宙の素がインフレーションによって急激に膨張して一時的に冷え、その後再加熱されたと考えられています。
そして幼い頃の私たちがビッグバンだと思っていたのは、この再加熱現象であることが明らかになりました。
私たちの宇宙は誕生した直後から
「超高温超高密度の点」➔インフレーションで急膨張して冷却➔再加熱(ビッグバン)➔素粒子の誕生➔ヒッグス粒子の性質変化➔原子の誕生➔星々の誕生➔現在の宇宙
と目まぐるしく様相が変化していったのです。
この変化は全宇宙の物体の性質や時空の性質、そして力の働き方そのものもが劇的に変化することから「相転移」と呼ばれています。
また変わったのは宇宙の温度や大きさだけではありません。
宇宙の最初の段階では、現在自然界で見られる4つの力(重力、電磁力、強い核力、弱い核力)が一つに統合されていました。
宇宙が相転移するにつれ、これらの力は分岐し、現在知られている形になりました。
たとえるなら、この力の分岐は、単一の樹木が成長し、多くの枝に分かれるようなものと言えます。
各枝はもともと同じ幹から生じたものですが、成長するにつれて異なる方向へと伸びていきます。
そして新たな枝が芽生えると、力のあり方が変化して宇宙全体の物理法則も変化していきました。
(※またヒッグス粒子の性質変化によって素粒子にまとわりつくようになると「質量」が発生して粒子の飛び回る速度が低下し、原子の形にまとまれるようになっていきました)
ビッグバンは目まぐるしい相転移の1つに過ぎない
このインフレーションが何によって引き起こされたのかはまだ完全には分かっていませんが、一つの説は、宇宙全体を包み込むような特殊な「量子場」というものが関係しているというものです。
量子場とは、宇宙の最も基本的な成分として宇宙全体に広がっており、物質やエネルギーは、この場を通じて存在できるようになると考えられています。
しかしインフレーション時にはそんな宇宙を支える場が何らかの理由で不安定になり、その結果として宇宙が急激に膨張したと考えられています。
たとえるなら、宇宙と言う水槽を満たしていた水が突然沸騰して蒸気に変わるような状況を想像すると良いでしょう。
インフレーションの終わりには、この量子場が崩壊して加熱され、何もない空間から突然、大量の粒子と放射線が発生し、後に私たちの体や銀河の星々を作る材料となりました。
砂糖が水に溶けている状態から、水が蒸発して砂糖が再び結晶化するようなものと考えることができます。
これが「ビッグバン」として知られる現象です。
このビッグバンによって発生した粒子は、宇宙が誕生してから約12分後に初めて原子を形成し、その後数億年をかけて星や銀河が形成され始めました。
この空間から粒子が出現するという性質は現在の宇宙にも引き継がれており、粒子加速器などで大きなエネルギーを発生させると、空間からさまざまな粒子が出現することがわかっています。
そのため膨張する宇宙に住む私たちは、ある意味で、ビッグバンの最中あるいは裾野に存在していると言えるでしょう。
しかしここで語られるのは主に素粒子や原子など「通常の物質」です。
一方、宇宙には通常の物質よりも遥かに膨大な「暗黒物質」が存在しています。