生物はなぜ苦味を検知するようになったのか?
苦味は、生物が毒となる食べ物を避けて生存するための、警告システムとして進化してきたと考えられています。
全ての毒物が苦い訳ではありませんが、毒を防御手段として持つ動物や植物たちの多くは、苦味が強い毒を体内に蓄えることで、捕食者の持つ警告システムを作動させ、捕食を逃れる戦術をとっています。
これまでの研究によって、人間をはじめとした脊椎動物は、舌などに存在する味覚受容体2型「T2R」によって苦味を検知し、脳に苦味信号を送っていることが知られています。
受容体とは細胞膜表面にあるセンサーであり、特定の形状をした化合物と結合することで信号を発します。
捕食者の受容体「T2R」を効率よく刺激し、捕食者に対して強い苦味を与えられるほど、生存の確率は高くなります。
そのため現在の地球では、さまざまな動植物が苦味を発するようになりました。
またいくつかの果実をつける植物では、苦味を解除するタイミングを作ることで、適切な時期に動物に食べられるように進化したものも存在します。
(※果実の内部にある種が十分に育つまで食べられたくないからです)
さらに冬眠明けのクマなど一部の動物では、長い冬眠時代に溜まった老廃物などを排除するため、特定の苦味を持つ野草を積極的に食べていることも知られています。
このような苦味に対する積極性は、進化によってT2Rのバリエーションが増えて、感じられる苦味の種類が増えたことが大きな役割を果たしています。
(※マウスでは30種類のT2Rがあることがしられています)
コーヒーをはじめとした苦い食べ物を人間が嗜好品として扱うのもT2Rが多様化して「大丈夫な苦味」という概念が芽生えたからと言えるでしょう。
そういう意味では、進化した動物では苦味は毒を避けるだけでなく薬効を得るための方法としても機能していると言えます。
現在では、苦味受容体の遺伝子や構造に関する詳細な理解が進んでおり、苦味の感覚がどのように進化し、生物の生存戦略にどのように組み込まれているかについても解明が進んでいます。
しかし「T2R」の起源については、多くが謎に包まれていました。
私たち人間をはじめとした脊椎動物は、いつ、どんな姿の時に「苦味」を検知するための受容体や、その設計図となる遺伝子を獲得したのでしょうか?