イルカの驚くべき「賢さ」と「スキル」が明らかに!
西オーストラリア州・バンバリー市のクーンバナ湾(Koombana Bay)では、長年にわたってカニ漁が伝統的に行われてきました。
漁師たちは餌をセットした編みカゴをボートから浅瀬の底に落とし、カニが食いつくのを待ちます。
ところが、ある時期から漁師たちは異変に気づき始めました。
仕掛けたカゴの中から餌だけが知らぬ間に消えるようになったのです。
すぐにそれはクーンバナ湾に生息する野生のバンドウイルカの仕業であることが分かりました。
同湾で40年以上もカニ漁を続けるラッセル・ドーソン(Russell Dawson)氏によると、イルカがカニ漁に干渉し始めたのは20年程前からで、ここ最近はカゴを落とすとほぼ確実に餌が狙われるようになっているといいます。
野生動物保護活動家のロドニー・ピーターソン(Rodney Peterson)氏は2年前にこの行動を初めて観察しましたが、同時にイルカが餌を固定するためのフックやピンまで誤飲しているのではないかと懸念しました。
そこで同氏は、バンバリー市にある野生イルカの保護団体「ドルフィン・ディスカバリー・センター(Dolphin Discovery Centre)」と協力し、水中カメラやドローンを使ってイルカの行動を詳しく撮影することにしました。
するとイルカたちは餌を盗み取るための様々なスキルを学習し、習得していることが明らかになったのです。
まず基本的なカニ漁には、上面が開いている円筒形の編みカゴの底に餌を固定して海底に沈めますが、イルカは網や紐の隙間から器用に口先を差し入れて、餌だけを食べていました。
イルカは金属製のピンやフックを食べないよう注意しながら、餌だけを引き抜くか、食べられる大きさに分解していたといいます。
そこでチームは次に、餌が直接取れないようにカゴを海底に伏せる形で置きました。
しかしイルカたちはすぐさま、口先を紐に引っ掛けて体を回転させ、カゴを引っくり返して餌を食べる方法を編み出したのです。
チームはさらに難易度を高めるため、餌をプラスチック製の小箱の中に入れた状態でカゴにセットしました。
これならイルカが口先を差し込めるような隙間はありません。
ところが驚くべきことに、イルカたちは歯を使って小箱の扉を器用にパカッと開ける技術を習得してしまったのです。
同チームのアクセル・グロスマン(Axel Grossmann)氏は「この映像には流石に驚きを隠せませんでした」と言及。
「私たちはイルカが餌を盗むために、これほどまでに努力を費やして学習し、手が使えない問題を克服しているとは知りませんでした」と続けています。
ただこのままイルカに食べられるばかりではカニ漁師たちも商売上がったりですし、イルカの側にも網カゴの金具やプラスチック部品を誤飲したり、ケガをする危険性があります。
そこでチームは金属製の小さな網袋を作って、その中に餌を密閉し、網カゴに固定することにしました。
これだとイルカには口先を差し込む隙間も、歯で開けられる扉もありません。
その一方で、カニたちは小さな爪を隙間から差し込んで餌にありつくことができます。
この策は見事に成功しました。
カニはちゃんと餌に釣られて寄ってくる一方で、イルカたちは食べられる方法が見つからなかったので、諦めてその場を去っていったそうです。
「イルカは非常に賢く、観察力に優れ、人間のしていることを水中から常にジッと見ています」とグロスマン氏はいいます。
イルカたちは長年、クーンバナ湾のカニ漁を観察する中で餌が簡単に手に入ることを理解し、カニ漁に干渉するようになったのでしょう。
また網カゴを狙うイルカには親子連れが多く、母親が子供に餌の取り方を教える点でも打ってつけだったのかもしれません。
ただ餌の盗難防止法が見つかってしまった以上、イルカたちはまた別の餌場を見つけなければならないでしょう。