会話中のアイコンタクトは、たとえ稀だとしても、相手との関係を深めるのに役立つ可能性がある
私たちが対面して会話する時、そのコミュニケーションは、言語以外でも行われています。
例えば、体の姿勢や手のジェスチャー、そして視線などです。
特に会話中の視線は、「私たちが何に注意を向けているか」「どんな意図を持って言葉を発しているか」「どんな心理状態にあるか」など様々な情報を与えます。
しかしながら、メイランド氏ら研究チームによると、「互いの視線が重なった時の影響について、科学的な知見はほとんどない」ようです。
そこで、次のような疑問が生じます。
「会話において、目と目を合わせる必要は本当にあるのだろうか」
「相手の顔を見るだけで十分なのではないか」
そこで今回、メイランド氏ら研究チームは、会話中に目が合う割合と、それが及ぼす影響について調査することにしました。
実験では、知り合いではない14人の参加者(女性12人、男性2人、平均20歳)が二人一組になり、向かい合って特定の話題について話し合いました。
ちなみに、この特定の話題とは、「砂漠や極寒の地で生き残るために役立つアイテム(例:コンパス、手斧、チョコレートバーなど)」を話し合ってランク付けする、というものでした。
そして参加者たちは、その会話中、視線を検出するゴーグルを装着しており、視線の動きや、相手の目と口を見つめる頻度などが分析されました。
その結果、参加者たちは会話中のほとんどの時間、パートナーの顔から目をそらしていることが分かりました。
相手の顔に視線を向けたのは、対話時間のうち、たったの12%でした。
しかもそのほとんどのケースで、視線は相手の口に向けられており、目と目が合っていた時間は全体の3.5%に過ぎませんでした。
これまで面識がなかった人との会話において、アイコンタクトは非常に稀であり、ごく短い時間しか行われないのです。
このことから、ほとんどの人は会話中に相手のことをあまり見ていないことがわかります。
しかしながら、この「稀なアイコンタクト」には大きな力があることも分かりました。
参加者たちは、相手と視線が交わされた後、高い確率で、その後も相手の視線を追う行動を取りました。
研究チームが述べるように、「相手の視線を追う」ことは社会的行動の1つであり、人と人が関係性を深める「相互作用」だと言えます。
実際、相手の視線を追うことは、相手が「何に注意を払っているか」を理解し、共感するための重要な手掛かりとなります。
また、集団におけるメンバー間の協調を助け、信頼していることを示すシグナルとなります。
つまり会話中のほとんどの時間は相手に注意を払っていなかったとしても、稀な目の合う瞬間に人は相手の意図を理解しようと努め、共感を得ている可能性があるのです。
子供たちも、親や他の大人の視線を追うことで、重要な情報を得たり、社会規範を学び取ったりしています。
アイコンタクトは頻繁には行われませんが、これらを促進することを考えると、やはりコミュニケーションにおいて目を合わせることは重要な要素だと言えるでしょう。
しかし、今回示された通り、目を合わせることは重要とは言え、自然な会話中に起きる頻度自体は稀です。そのため目を合わせるのが大事だからといって、じっと相手に目を合わせ続けようとすると、非常に奇妙な印象を与えることになるんでしょう。
人によっては相手の目を見て話すことは、難しい行為かもしれませんが、これが会話中3.5%程度しか発生しないということを考えると、それは重要なことを伝えたいときや、注意して聞いて欲しいときだけで十分なようです。
このことを理解して、無理のない範囲でアイコンタクトを意識すれば、苦手なコミュニケーションも円滑に行うことができるかもしれません。