人間はイヌの虹彩が濃いと、より親しみを感じる
次にチームは、12組の画像を作成しました。
この画像は、同じイヌの写真2枚で構成されており、1枚は虹彩が薄く、もう1枚は虹彩が濃くなるよう加工されています。
そして76人の参加者にこの画像を見せ、「このイヌとどれくらい触れ合いたいか」「飼育したいか」「どのような性格に見えるか」を評価してもらいました。
その結果、虹彩が濃いイヌは、虹彩が薄いイヌよりも親しみやすく、より社交的・友好的に見えると評価されました。
また参加者は、虹彩が濃いイヌに対して、より「子供っぽい」イメージを持つことも分かりました。
追加で66人の参加者を対象に調査を繰り返しましたが、同様の結果が得られたようです。
ちなみに今回の研究では、目の色が「触れ合いたい」「飼育したい」という参加者の気持ちに違いを生じさせることはありませんでした。
それでも研究チームは、虹彩が濃い(目が黒い)ことが、飼い主とイヌの関係性に影響を与えると考えています。
彼らは、「人々は、イヌの虹彩が濃いと、その内側にある瞳孔のサイズを見分けることが難しくなり、瞳孔が大きいと錯覚するのではないか」と推測しています。
そして、その錯覚は幼児の特徴(大きくて丸い目など)と一致しており、これが「子供っぽい」「幼い」というイメージを作り上げ、イヌの保護や世話に影響を与える可能性があるというのです。
また瞳孔の拡大はポジティブな感情(幸福など)、瞳孔の収縮はネガティブな感情(怒り、悲しみなど)とそれぞれ関連していると言われています。
最近の研究では、瞳孔が大きい人は一般的に魅力的であると評価されることも分かっており、こうした要素もイヌの魅力を高めていると考えられます。
確かに小説などで可愛らしい女性を表現する際も、「黒目がちな瞳」という言葉が使われることがあります。ここからも人は黒目(瞳孔)が大きいと愛らしい、親しみやすいと感じていることがわかります。
これら一連の研究とその結果から、研究チームは、イヌが家畜化されていく過程で、人間が脅威を感じにくい「黒っぽい瞳(濃い虹彩)」を持つようになったと考えています。
はるか昔のイヌたちが、自己家畜化(人為選択なしに人間との共同生活に適応すること)する時に、虹彩がだんだんと濃くなっていったというのです。
もちろん通常の家畜化によって、つまり人間が意図的に親しみやすい目のイヌを選択していくことで淘汰圧となり、現代の多くのイヌがそうした特徴を持つようになったとも考えられます。
そう考えると、飼い主たちが愛犬の目に引き寄せられるのも無理はありませんね。
一方で、今回の研究には、サンプルサイズが小さいという限界があります。
また虹彩が薄いイヌも存在すること、そもそも虹彩の違いはメラニン色素の違いであり「紫外線から身を守る」という目的があること、人種によって虹彩の濃さは異なり、参加者によって調査結果(感じ方)に違いが生じる可能性があることなど、さらに考慮すべき点は複数あります。
しかし、人間との関わりによる一種の進化の証がイヌたちの目に現れているというのは、興味深い考え方です。
イヌたちは古くから人間のパートナーを務めてきましたが、私たち人間は、もっと彼らのことを知る必要があるでしょう。