不要になった胴体を「捨てる」のではなく「食べる」ロケットエンジン
現在、一般的に用いられているロケットは多段式です。
この方式では燃料タンクを複数に分け、タンク内の燃料を使い切った時点で、タンクを順次切り離していきます。
そうすることでロケット全体の重量が段階的に小さくなっていくため、エネルギー効率を高めることができるのです。
つまり、「不要になった胴体(タンク)は捨てる」というのが現在の方法です。
しかし、ブズディク氏ら研究チームが現在開発中のロケットは、「不要になった胴体を燃料にする」という方法が採用されています。
いわば、自分の体を食べて重量を軽くしつつ、そこからエネルギーを生み出すわけですね。
この方法では、これまで捨てていたタンク自体も燃料にできるため、燃料の積載量を従来より増やすことができます。これはロケットに詰めるペイロードの重量を増やせる可能性があります。
また小型衛星の打ち上げなどの特定のミッションにかかる費用の削減や、スペースデブリ(軌道上にある不要な人工物体)をこれ以上増やさないことにも役立つ可能性があります。
この新しいロケットは「オートファジー・ロケットエンジン」と呼ばれています。
この名前はラテン語で「自身を食べる」という意味になる「autophage」から来ています。
(この語は、英語で「autophagy」、日本語で、「オートファジー」と呼ばれています)
この「オートファジー・ロケットエンジン」のアイデア自体は新しいものではなく、1938年から存在していました。
しかし、グラスゴー大学の研究チームが、実用可能なレベルにまで発展させることができたのが2018年のことでした。
そして現在では、実用に向けてさらなるステップを踏んでいます。
今回研究チームは、「ウロボロス(Ouroboros)-3」と名付けたオートファジー・ロケットエンジンの燃焼に成功し、100ニュートンの推力を得ることに成功しています。
このウロボロス-3の胴体は、高密度ポリエチレンのプラスチックチューブで構成されており、エンジンの排熱で溶けるようになっています。
そして溶けた胴体は、ロケットの主な推進剤である酸素やプロパンと混合され、燃料室に送り込まれるのです。
課題となっていたのは、ロケットが自分を食べて収縮する際に、プラスチック製の胴体が座屈せずにその形状を維持することでした。
それでも今回の試験では、ウロボロス-3がオートファジー段階のほとんどで、安定して燃焼し続けることが示されました。
また、ウロボロス-3のプラスチック製の胴体が、使用される総推進剤の最大5分の1の量を供給できることも示されました。
さらにこの試験では、効率的なロケットエンジンとその制御に欠かせないスロットル(エンジン出力のコントロール)、再始動、オン/オフ パターンでのパルス動作が可能であることを実証しました。
研究チームは、試験を終えて次のように述べています。
「従来のロケットの構造体は、総質量の5~12%を占めます。
私たちのテストでは、ウロボロス-3が、自身の構造体の質量をほぼそのまま推進剤として燃焼させられることが示されています。
その質量の一部でもペイロードのために利用できるなら、将来のロケット設計にとって魅力的なものとなるでしょう」
とはいえ、今回のウロボロス-3の実験で得られた推力はそこまで大きいわけではありません。
今後は、オートファジー・ロケットエンジンの推進システムのスケールアップが課題となるでしょう。