呼吸に含まれる空気の流れは個性がある
私たちの呼吸は、ただ空気を取り入れているだけでなく、医学的な手がかりや、私たちの個性が隠されています。
息は、まるで個人の生体情報を運ぶメッセンジャーのように機能するのです。
息から医学診断を行う研究は、過去に熱帯熱マラリアの感染診断において重要な進展を見せました。
患者の呼吸中に含まれる特定の化学物質を分析することで、感染の有無を判別する「息紋」という新しい概念が生まれたのです。
さらに2022年に日本の東京大学と九州大学らの研究者によって行われた研究では、息に含まれる化学成分を分析する「電子鼻」の開発に成功しました。
この技術は、個々人の呼吸に含まれる微妙な化学的違いを感知し、個人識別の可能性を広げています。驚くべきことに、この方法の正確率は約97.8%に達し、顔認識(99.97%)や指紋スキャン(98.6%)に匹敵する精度を示しています。
しかし、この技術を実現するためには、デバイスに電子鼻を外付けする必要があります。
現在のスマートフォンには高度な圧力センサーや画像認識など多機能センサーが搭載されていますが、まだ化学成分を検出する機能は備わっていません。
そこで今回、インド工科大学の研究者たちは、息の中に含まれる空気の圧力や乱流を個人識別に応用できるかどうかを調査しました。
私たちが息を吐き出すとき、空気は収縮する横隔膜によって気管を通して肺から押し出され、喉と口腔内を経て吐き出されます。
横隔膜、肺、気管、喉、口腔内の構造、そして気流速度はヒトによって大きく異なるため、口から吐き出される息の乱流パターンも個性があり、理論上、個人識別に利用できる可能性があったからです。