「ふー」っと息を吹きかける個人認証システムは死体が使えない
私たちが日常何気なく行う「呼吸」私たちの個性を映し出す鍵となるのか?
答えを得るため研究者たちは、94人に10回ずつ息を吐き出してもらい、空気の流れを1 秒間に 1万 回測定できる高精度な空気速度センサーでデータを収集しました。
そして得られたデータをAIに学習させ、個人と呼吸の関連付けを学習させました。
また性能チェックにあたっては、2つの異なる方法が試されました。
最初の方法では、最も一般的であるIDとパスワードを使ったユーザー確認方法に似たもので、被験者が自分の名前(ID)を入力し、パスワードの代わりに息を吹きかける方式を採用しました。
結果、AIは97%の高い精度で呼吸が被験者本人のものであることを識別しました。
2つ目の方法では、名前の入力を省き、息のみで個人を特定する試みが行われました。
こちらは被験者のIDが入力されないぶん高難易度でしたが、AIは全体の半数のケースで、呼吸した人物を2人まで絞り込むことに成功しました。
(※この2人のうち1人は正解となる個人を含んでいました)
研究者たちは、最初期のテストで既にこの成績ならば、学習対象の拡大など将来的な性能向上によって、息による認証システムが実現できると結論しています。
また息による認証システムには、指紋や顔を使った認証にはない、独自のアドバンテージが存在します。
アクション映画などの主人公はしばしば、倒した警備員を引きずって指紋認証システムや顔認証システムを突破する様子が描かれています。
また現実でもFBIが指紋認証システムを突破するために、死亡した人間の指紋の採取を求める事例が確認されています。
指紋や顔を使った認証システムは鍵のように、物理的な模倣さえうまくいけば、本人の許可なく突破することが可能だからです。
しかし息を使った認証システムではこのようなことは不可能です。
本人と同じ空気の乱流を生成するには、横隔膜、肺、気道、喉、口腔といった複合的な構造を全て模倣した上で、肺活量なども一致させる必要があるからです。
研究者たちも「死んだ人をこのテストに合格させることはできません。息を吐き出す必要があるからです」と述べています。
息を用いたこの認証システムは、指紋や顔認証とは一線を画します。
物理的な模倣が困難なため、より安全な認証方法となり得るのです。
また今回の研究は、息から読み取れる個人の特徴という新たな領域に、未知の可能性が秘められていることを、この研究は教えてくれています。
息吹一つで個性を読み解くこの技術は、私たちの身元確認の方法を根本から変え、新しい時代のセキュリティスタンダードを築くかもしれません。