動物の体は発育時の「ゆらぎ」により非対称になる
研究の紹介をする前に、「左右が非対称であることと生物の進化って、どう関係しているの?」という疑問について整理しておきましょう。
生物の左右非対称性は、生物の見た目や機能に違いが生じる「変異」のひとつです。これは「表現型変異」と呼ばれ、たとえば、「毛の色の違う仔が生まれる」というのはこの変異の一例です。
表現型に起こる変異は、遺伝的な要因だけでなく、「非遺伝子変異」によっても引き起こされます。
たとえば同じ遺伝子を持つ双子であっても、環境や発育過程によって見た目や性格が変わることはあります。これは非遺伝子変異の一例です。
非遺伝的変異には、「表現型可塑性」と「発生ノイズ」などのタイプがあります。
表現型可塑性(Phenotypic Plasticity)は、同じ遺伝情報を持つ生物が、栄養状態、温度や光などの異なる環境要因に応じて、異なる外見や行動を示す現象です。
そして、発生ノイズ(Developmental Noise)は、生物が発達する過程で生じるランダムな変動のことで、個体間で微妙な差異を生み出す要因となります。
左右非対称性は、この発達過程で生じる「ランダムなゆらぎ」である発生ノイズの現れです。
生物がどのように進化し、環境に適応するかを理解するためには、「表現型変異」の研究が重要です。しかし、従来は遺伝的要因が変異の主な原動力と考えられていたため、非遺伝的変異の研究はあまり進んでいませんでした。
そこで千葉大学大学院の研究チームは、「表現型可塑性と発生ノイズは、進化にどう影響するか」に焦点を当て、実験を行いました。
チームは、異なる環境下で飼育したショウジョウバエの翅(はね)の形態を詳細に調べ、進化プロセスに与える影響を調査しました。
その結果、「環境に応じて形態を変化させる能力(表現型可塑性)が高い系統ほど、左右対称性の崩れやすさ(発生ノイズ)が大きい傾向がある」ことがわかったのです。
どのように調査が行われ、何がわかったのかを次で詳しくみていきましょう!