AI技術を使用して受信画像のクリーンアップを実現した
そこで今回の研究ではまず、カメラから検知された電磁波放射パターンと撮影された映像の間に、予測可能な関連性があるかが確認されました。
用意されたのは上の図のように、被写体(例えば極秘会議)と会議を記録する記録用カメラ、そして電磁波を検知するためのアンテナをはじめとした受信装置でした。
結果、検知された信号は被写体を識別するのに十分であることが判明します。
ただ、やはりノイズの影響は甚大でした。
この方法で盗聴された画像は、色が失われたり、グレースケール(白黒の濃淡)が不正確になったり、全体の画質が低下するなど、多くの問題を抱えているからです。
これを解決するために、研究チームはAI技術を利用し、検出された低画質の映像と元の映像の関係をAIに学ばせてみました。
すると画質の問題は大幅に改善し、元の画像にかなり近い品質でビデオを再現することに成功しました。
上の図ではカメラがとらえた正規の画像が一番左側に示されています。
中央は盗聴者がカメラから受信した電波をもとに構成された画像で、かなり歪んでいるのがわかります。
しかしAIによる処理を行うことで一番右に示された画像のように、オリジナルとそん色ない状態までクリーンアップすることができました。
次に研究者たちは「EM Eye」の性能を検証するために、12種類の市販されている一般的な監視カメラや車載カメラ、そしてスマホのカメラでテストを行いました。
すると驚くべきことに、中程度の品質のEM受信機器を使用すると、スマートフォンのカメラから発せられる電磁波は、最大で30センチメートル離れた場所からでも受信可能であることがわかりました。
さらに、ホームカメラや車載カメラの電磁波は、最大で5メートル離れた場所から受信可能であり、ドアや壁を越えて、車内や家庭、オフィスなど、物理的に隔離された空間の映像を盗聴できることが明らかになりました。
この結果は数万円程度の受信装置さえあれば、他人のカメラをリアルタイムで盗撮できることを示しています。
研究者は受信可能距離を伸ばすには電気工学に関する高い知識が必要になってくるが、近距離ならば大学2年生程度の知識と安価な装置で実現可能だと話します。
同様の電磁波から盗撮を試みる技術は、パソコンなどのモニターに対しては40年以上に渡り検討されています。
研究者たちもその点の類似性については認めているものの、AI技術の導入や格安の機器で実現可能である点は注目すべきでしょう。
「EM Eye」はカメラがオフでも盗撮可能で証拠も残らない
さらに重要なことは、EM Eye はカメラの電源がOFFでもカメラが見ているものを覗き見できるという点です。
もし十分に敏感で、僅かな信号でも高解像度に再構成できる特別な機器があれば、カメラのCCD(光を電気信号に変換する装置)から発せられる信号を、カメラがオフの状態でも受け取ることが理論上可能なのです。
研究者たちも「レンズが開いていれば、たとえカメラをオフにしていると思っていても、情報が収集できる」と述べています。
(※ただオフの状態のカメラから情報を収集する場合、得られる情報はかなり限定されます)
またこの技術はコンピューターがハード ドライブに記録した映像データを盗み見ているわけではなく、有線を伝う電気信号の漏洩を受動的に取得しているだけのため、ハッカーが自分でデータを記録せずにリアルタイムでカメラ映像を覗き見していた場合、なにも証拠が残りません。
カメラのレンズ部分に物理的な覆いを行うことで最低限の防御は可能になりますが、赤外線など覆いを貫通する光については、別途対策が必要になるでしょう。
研究者たちは、カメラ内部の電気回路やカメラのボディー部分に電磁波を遮断する覆いしたり、部品間のデータ伝送を工夫することが解決につながると述べていますが、現在流通している機器に関して、現状このハッキング技術には完全に無防備な状態です。