「冷蔵庫に貼られたマグネット」は、ポジティブな思い出を引き出しやすい
インタビューの結果、マグネットには、思い出を守り、ポジティブな感情を引き起こす効果があると分かりました。
バイロム氏は次のように述べています。
「参加者たちは、マグネットが自分にとって何を意味するのか話す時、具体的な出来事や人々についての記憶や感情を、とても簡単に蘇らせることができました。
その中には、亡くなった人や成長して引っ越した子供たちとの旅行の記憶なども含まれます」
参加者たちは、マグネットを見ただけで、大切な人と過ごした大切なひと時をすぐに思い出すことができたのです。
マグネット1つ1つ特徴的ですが、それらの特徴と大切な記憶がしっかりと結びついていることが分かります。
またこうした記念品は「ポジティブな記憶だけを残すのに役立つ」可能性があります。
すべての旅行が楽しく終わるわけではありません。しかし記念品は明確な記録ではなく、曖昧で印象的な記憶と結びついています。そのため「嫌な記憶」が刺激されず、思い出をコントロールできる可能性があるのです。
だからこそ参加者の多くは、冷蔵庫のマグネットを見ながら、「楽しめなかった休日や悪い思い出はありません。そこにあるものすべてがいい思い出です」と幸せに浸っていました。
また一部の参加者は、「冷蔵庫に貼ったマグネットが、写真よりも思い出を引き出すのに役立つ」と主張しています。
マグネットは写真のように明確な記録ではない分、結びついた思い出を呼び出すのに多少労力がかかります。研究者はそれが記憶の引き出しとして逆に良い方向に働くのだろうと語ります。
実際、ある人は次のように述べています。
「どんな場所に出かけても、1日に50枚から100枚は写真を撮ることができます。
しかし今は、何も写真を撮らないことが多いです。観光の最後に、冷蔵庫に貼るマグネットを買うだけです」
研究チームによると、ほとんどの参加者にとって、冷蔵庫に貼られたマグネットは、何年にもわたる「休日の思い出」のまとめとして機能していました。
「お出かけ」や「旅行」のたびに何十枚もの写真を撮ったとしても、これが大量に積み重なっていけばそのそれぞれを日常で見返す機会はどんどん減っていきます。
しかし冷蔵庫のマグネットンは、それらの記憶を集約し、日々の生活の中でふと目にした瞬間、一瞬で一連の出来事を思い出せるアイテムとして機能しているのです。
研究チームは、冷蔵庫のマグネットが、便利なデジタル写真よりも、より頻繁で簡単に、「記憶の検索」を引き起こすと述べています。
ただ研究では、冷蔵庫のマグネットが日常目に入る「装飾品の一部」として当たり前の存在になると、思い出を守る効果が薄くなることも示されました。
そのため研究チームは、「誰かの家に招待された時には、冷蔵庫のマグネットが何を意味するのか尋ねてあげる」よう勧めています。
きっとそれは、友達の楽しい思い出を呼び起こすだけでなく、楽しい会話のきっかけとなるはずです。
今回の研究は、旅行のお土産という要素に限定して、マグネット収集が好きな人を対象に行われた、かなり小規模な調査です。
そのため、さまざまな思い出の品が持つ、一般的な効果について明らかにできたとはまだ言えません。
しかし、お土産品でなかったとしても、いつ誰からもらったなどの思い出であっても、同様にこうした小さな記念品が、私たちの日常の中で楽しい記憶や、大切な思い出を呼び覚ましポジティブな気分にしてくれる可能性があります。
バイロム氏は、「研究を通して、私自身も冷蔵庫のマグネットから楽しい思い出を振り返る時間が増えた」と話します。
最近は大切な思い出はなんでも写真で残す人が多いかもしれません。しかしそんなはっきりした記録でなくても、なにかじんわりと大切な思い出を呼び出す小さな記念品を、毎日目に付く場所に置いておくだけで、人生の楽しい時間を増やせるかもしれません。
それがただの冷蔵庫の磁石であっても。