先天異常を示した記述を30例以上も発見!
チームは『日本書紀』に見られるヒトの異常な身体・精神特徴に関する記述をピックアップし、得られる限りの情報から病名の診断を試みました。
ただ『日本書紀』を読むといっても、そう簡単にはいきません。実のところ、日本書紀にはオリジナルの原本が残存していないのです。
現存しているものは、日本書紀の写本に当たるものです。完成当初から歴史書として重要視されてきた日本書紀には、手書きの写しがいくつも制作されており、数十種にのぼる写本が現在も残っています。
そこでチームは、書写の過程での文字の書き間違いや虫食いによる欠損など、写本間で記述が異なる可能性を考慮し、入手可能な範囲で写本を見比べるという作業を繰り返しました。
その結果、医学的な先天異常と見られる記述が合計で33例も見つかったのです。
例えば、生まれつき腕に「リンパ管奇形」と見られる肉のこぶがある天皇や、生まれつき言葉を話すことができない皇族たち。
それから天皇や皇族の他にも、尻尾が生えた人間や2つの顔を持つ異形の人物の記述が見られました。
実際、こうした奇形は現代でもたびたび確認されており、尻尾が生えた新生児の症例も報告されています。
『日本書紀』の記述の中には、これらの特徴を「生まれつき備えていた」と書かれているケースもあり、先天異常の可能性が高いことを示唆しています。
もちろん、すべての記述が真実であるとは思えず、実際の症状というより何か他の事象の比喩だと考えた方が妥当なものもあったそうです。
それでも、明らかに医学的な先天異常と見られる記述が見つかったことで、『日本書紀』が歴史研究の材料としてだけでなく、古代日本人のカルテとしても読めることが示されました。
チームは今後、『日本書紀』以外の古文書も対象として、古代日本や東アジアにおける先天異常の実態解明を進めていきたいと考えています。