長さ約6センチの尻尾を持った状態で誕生
女児はメキシコ北東部にある田舎町の病院にて、健康な20代後半の両親のもとに生を受けました。
帝王切開での出産だったものの、妊娠期間や母子の健康状態には何の問題もなかったといいます。
しかし、女児を取り上げた医師たちはすぐに、普通とは違う異変に気付きました。
お尻の中心部の尾てい骨からやや左側に長さ5.7センチ、幅3~5ミリの尻尾が生え出ていたのです。
先端部が尻尾らしく細く尖っており、全体的に細かな毛に覆われていました。
自発的にウネウネと動くことはなかったものの、医療チームが針の付いた器具で軽くつまんでみると、女児は泣き出したそうです。
医療チームは、尻尾の生えた新生児は極めて珍しく、メキシコ国内ではおそらく初の事例と見られると話します。
世界全体でも2017年時点で195件しか確認されていないという。
尻尾が生える原因も分かっておらず、通常は出産後でないと発見されません。
しかし実は、ヒトの胎児では妊娠2カ月頃まで尻尾が存在しているのですが、成長過程で再吸収され、出産する頃にはなくなっています。
私たちは元々、サルと祖先を共有していたために尻尾を持っていたのですが、約2000万年前にサルと分岐してから、尻尾をなくす方向に進化していきました。
現在、尻尾の名残りとして残っているのが「尾てい骨」です。
その後のX線検査で、女児の尻尾には骨がなく、尾てい骨の形成異常もないことが分かりました。
稀に脊椎の異常発達や腫瘍による瘤(こぶ)で、尾てい骨に尻尾のような突起を持つ赤ちゃんが生まれますが、これは「偽の尻尾(Psudotail)」と呼ばれます。
一方で、「本物の尻尾」は中に骨がなく、筋肉や血管、神経を含んでおり、動物のそれとよく似ています。
女児に見られた尻尾はまさに”本物の尻尾”でした。
女児の尻尾は非常に柔らかく、脂質や軟部組織、筋肉などで構成されていることが明らかになっています。
しかし、そのまま尻尾を残していても有用ではありませんし、現代の人間社会においては様々な困難に直面するはずです。
そこで医療チームは、女児の両親とも話し合い、尻尾を切除することにしました。
女児の健康面には、脳や心臓、泌尿器系を含め、何の異常も見つかっていません。
そこでチームは、生後2カ月になるまで体重が正常に増えるのを待ち、外科手術に十分耐えられることを確認した後で、尻尾の切除を行いました。
チームは尻尾を根元から切除し、欠損部にお尻の皮膚を移動させる「リンバーグ形成術(Limberg plasty)」という再建手術を用いています。
手術は無事に成功し、術後の合併症も見られず、女児は健康に成長しているとのことです。
ちなみに、切除された尻尾は当初より0.8センチほど伸びていたという。
そのまま尻尾を残したままであれば、さらに長さが伸びたかもしれませんが、サルのように自在に操ることはできなかっただろうと考えられます。