インカシティに広がる黒いシミの下には「大量のクモ」のような模様が刻まれている
ESAは、2024年2月27日に、火星探査機マーズ・エクスプレスが撮影した画像を公開しました。
そこにはインカシティがはっきりと写っているだけでなく、その内部に「黒いシミ」または「黒い斑点」があるのが分かります。
そしてESAによると、この黒いシミの下には、「大量のクモ」のような模様が刻まれているというのです。
上記の画像ではクモと言われてもよくわかりませんが、火星探査計画「エクソマーズ」で打ち上げられた人工衛星「トレース・ガス・オービター(TGO)」が、2020年に撮影した画像を見ると言わんとされていることがよくわかります。
これは「インカシティ」ではなく、近くの別の領域を撮影したものですが、確かに火星の表面に無数のクモがうごめいているように見えます。
これと同じような黒いクモの大群のようなシミが、インカシティにも存在しているというのです。
しかしインカシティに潜むこのシミは、いったい何でしょうか?
ESAによると、これは火星の季節変化が関係しているようです。
火星の大気組成の約95%は、二酸化炭素で構成されており、冬になると、南極では地表が凍結した二酸化炭素(つまり、ドライアイス)で覆われます。
これが春になって温まると、温度が上がりやすい地面との接触面(ドライアイスの層の奥)から、ドライアイスが昇華し始めます。
これにより内部で圧力が高まり、最終的にはドライアイスの層の割れ目から、二酸化炭素のガスが一気に噴き出します。
この時、ドライアイスの層には亀裂が走ります。
これが、火星に見られる「大量のクモ」の正体です。
そして2024年のインカシティの画像の場合、噴き出たガスの中には、「黒い塵(おそらく玄武岩質の砂)」も含まれていると考えられます。
それらがガスと一緒に噴き出て地表に落ちることで、直径45m~1kmにもなる黒い斑点やシミが作られるのです。
こうしたプロセスを考えると、インカシティでは、塵が積もった「黒いシミ」のような画像しか見ることができませんが、その塵の下には、2020年に撮影された「大量のクモ」のような模様が存在していると考えられます。
そもそも火星のインカシティ自体がまだまだ謎に包まれた地形であり、この特殊な模様のシミとと共に、多くの研究者たちの興味をますます火星に引き付けるものとなっています。