火星の蜘蛛ですが、なにか?
うぞうぞと大量の蜘蛛が地面を這っているかのような奇妙な地形。
これが、火星南極に春先になると見られる「アラネイフォーム地形」です。
由来となっている「Araneiform」とは、「蜘蛛のような」という意味を持っています。
アラネイフォーム地形は、放射状に地面が割れてできたもので、その割れ目に暗い塵が堆積したことで、遠目にはまるで蜘蛛のような形に見えます。
地球では見られない地形のため、何がそれを作っているのか理解するのは難しい問題です。
しかし、現在もっとも支持されているのは2007年に地球物理学者のヒュー・キーファーが発表した「キーファーの仮説」と呼ばれるメカニズムです。
火星は大気圧が低く、その大気組成の約95%が二酸化炭素で構成されています。また太陽からは地球より遠く、1つの季節は地球の2倍の期間続きます。
そのため、冬になると南極では地表が凍結した二酸化炭素(CO2)、つまりドライアイスで覆われます。これが春になって温まると、温度の上がりやすい地面との接触面から、ドライアイスが昇華し始めます。
そして、ドライアイスの割れ目から圧力が逃げるように、一気に放出されます。このとき、ドライアイスと地面の接触部分にはガスの逃げ道が削られて、亀裂が走ります。
これは地下の物質を掘り返して堆積させます。さらに周囲が温まって、ドライアイスのすべてが昇華されると、後には放射状に削られた地面だけが残ります。
これがアラネイフォーム地形が作られるメカニズムだと、キーファーの仮説は説明しています。
南極の一部の地域でこの地形が目立つのは、そこの地面が古く表面が侵食されやすいためだと考えられます。
このキーファーの仮説は10年以上支持されてきましたが、実際そのプロセス自体が観察されたことはなく、地球には存在しない地形のため、実際本当にこの方法でアラネイフォーム地形が刻まれるかどうかの、経験的な証拠は不足していました。
そこで、トリニティ大学のローレン・マッキーン博士の研究チームは、実験室でこのプロセスを再現する実験を設計したのです。