「斜塔錯視」は消失点の予測とのずれで生じる
斜塔錯視が生じる原因については、科学誌「Perception」に掲載されたキングダム氏らの論文で説明されています。
彼らは、同じ2枚の画像が並んでいるにもかかわらず、それらを1枚の画像と認識しているため、斜塔錯視が起きると考えました。
2枚の画像を同じ空間上の1枚の画像と認識してしまうと、この画像を2次元の情報から3次元の情報に変換して理解しようとする過程で問題が生じるのです。
3次元の世界を2次元に変換した写真では、カメラと被写体の距離が離れると、1つの点に収縮していくように見えます。
その収縮する1点は「消失点」と呼ばれます。
例えば、クアラルンプールのベトロナスツインタワーを下から撮影した画像を見てみましょう。
2つのタワーの輪郭(赤線)を線でなぞり伸ばすと消失点に収縮するように見えます。
しかしこの画像を見て、ツインタワーが高くなるにつれ、2つのタワーの距離が近くなっていると誰も考えません。
これらのタワーが同じ角度で建っており、平行であることを正確に認識することができます。
私たちは画像を見た時に、この消失点などを無意識に知覚することで、物体の奥行きそして大きさや、別の物体との関係性(たとえば並行か否か)を2次元の情報から推測することができるのです。
芸術の分野では、この性質を利用して、平面に描いた絵に遠近感を出すために、消失点(複数個仮定する場合もある)を決め、すべてのものがそこに収束するように描く図法があります。
通常、人は1枚の画像に対して1つの消失点を予測します。
ところが斜塔錯視では実際にはそれぞれに消失点を持つ2枚の画像が並んでいる状態のため、左の塔の消失点を予測した後に、右の塔を見るとズレが生じてしまうのです。
この本来であれば、1つの消失点に収縮するはずという予測のズレから、もう片方の塔の傾きが強調され、より傾いて見えてしまうのです。
これが斜塔錯視が生じる原因です。
斜塔錯視からわかることは、私たちは2次元の情報から3次元の情報を脳内で構成する際には、観察したものを個別ではなく、全体として認識しているという事実です。
もし個別に認識できるのであれば、それぞれのピサの斜塔を同じ傾きで知覚することができるでしょう。
斜塔錯視は、実際に撮影した写真を左右上下に並べるだけで簡単に再現できる錯視です。
誰でも簡単に作れるので、自分で撮った写真で錯視画像を作ってみると面白いかもしれません。
いやいやどう見ても左右で違う画像でしょうと最初は思ったのですが、寄り目にして画像を重ねたら完全一致!目は多分ありのままを映しているんでしょうけど、そのデータを脳が修正してしまうんですね。ありのままだと生存に不都合があるからなのでしょうけど、不思議です。
寄り目にして立体視したら、なんとなく立体的に見える錯覚を覚えた