「ベローシファカ」のオスは、大きな精巣によって競争社会を生き抜いている
マダガスカルの南部・南西部・西部には、「ベローシファカ(学名:Propithecus verreauxi)」という名のサルが生息しています。
体長は40~50cmほどで、全身が白い体毛で覆われており、頭頂部は黒やチョコレート色になっています。
このベローシファカは、手のひらの発達により木登りが得意です。また木々の間を飛び移るために足は高い跳躍力を持つように進化しています。
こうした身体的な特徴から、ベローシファカは人生のほとんどを木の上で過ごします。
しかし、どうしても地上を移動しなくてはならない状況も生じるため、その時には、まるで人間のように2本足で立ち、横にジャンプしながら移動します。
このコミカルな動きは、テレビなどでもよく紹介されているため見かけたことのある人が多いでしょう。
彼らがこのような変わった移動方法を取る理由は主に2つあります。
1つは足が手に比べて長く発達しているため、手(前足)と足(後ろ足)の長さのバランスが悪く、4本足で歩きづらいため。
そしてもう1つは、足が高い跳躍力を持つよう発達しているため、普通に歩くよりもジャンプした方が移動距離が伸びるためです。
そのため人間には大変そうに見えますが、ベローシファカにとっては二本足でぴょんぴょん跳ねるのが効率的な移動方法なのです。
そんな横っ飛びで有名なベローシファカは、2~12頭の群れを作って生活しています。
そしてこの群れの構成は、1頭のオスと複数のメスの場合もあれば、1つの群れの中に複数のオスがいる場合もあります。
ベローシファカの社会では、メスが最も強い社会的権力を有していますが、グループ内のオスにも独自の階級があります。
もっとも強く優位に立っているオスがメスと交尾できる権利を持っており、この階級の違いは色でも識別できます。
優位なオスは、体内の分泌物を自分の胸に塗り付け、その匂いで性的なアピールをします。
そのため優位なオスの胸は茶色のシミがあり、そうでない下位のオスの胸は白くきれいなままだと言われています。
そして最近、優位なオスと下位のオスの違いは胸の色だけではなかったと判明しました。
ブエノ氏ら研究チームが、マダガスカル西のキリンディ・ミテア国立公園内に生息する23頭のオスのベローシファカを13年間にわたって調査したところ、精巣のサイズにも大きな違いがあると分かったのです。
なんと、群れの中に複数のオスが存在する場合、胸が茶色の優位なオスの精巣が、同じ群れの下位のオスの精巣に比べて、平均で103%も大きかったのです。
つまり優位なオスでは、精巣の入っている睾丸のサイズが約2倍にも膨れ上がっていたのです。
これは「優位なオスは体が大きいため、相対的に精巣も大きい」というわけではありません。
体のサイズに違いが無くても、精巣だけが大きく成長するのです。
大きな精巣はより多くの精子を作ることができるため、ベローシファカの優位なオスは、子孫を残しやすくなっていると考えられます。
研究チームによると、ベローシファカの優位なオスの精巣が大きい理由は、「その個体がより多くのテストステロンを生成しているのか、もしくは、他の下位のオスが生成できるテストステロンの量を抑制している可能性がある」とのこと。
また、「重要なのは、環境によって精巣を大きく変化させられるということであり、このことは、ベローシファカたちが社会環境に敏感であることを示している」とも続けています。
競争が激しい社会で生きるベローシファカのオスは、他のオスに負けないよう競争して行く過程で、精巣も大きくなってしまったようです。