海底熱水鉱床での金の回収試験
海底熱水鉱床とは?
海底熱水鉱床は、海底にある熱水噴出口の周りに形成される鉱床です。
海底下で海水がマグマで熱せられて上昇し、熱水が海底面に近づくと、海底下にしみ込んだ海水に冷却されたり、海底の裂け目から海中に噴き出したりする際に金属が沈殿して鉱床を作ります。
海底熱水鉱床には貴重な金属資源が豊富に含まれているため、将来的に重要な資源供給源になると期待されています。
海底熱水鉱床は、水深500mから3,000mの中央海嶺など海底が拡大する場所やニュージーランド、パプアニューギニア、マリアナ、日本に至る海溝に分布し、世界で約350か所程度が確認されています。
日本周辺海域では、沖縄トラフや伊豆・小笠原海域において、海底熱水鉱床が数多く確認されています。
日本周辺海域の海底熱水鉱床は、世界的にも比較的浅い水深に分布しており、開発には有利と考えられています。
実際、過去には幾つかの海底熱水鉱床から金を回収する取り組みが行われています。
たとえばパプアニューギニア沖での採掘では、金や銅などの貴金属を含む鉱床から金属を回収する技術(遠隔操作の掘削機や専用の輸送システム)が開発されました。
しかし技術的な課題やコストの問題、環境保護の懸念などが原因で進展が遅れ、計画が中断されることとなりました。
そこで新たな研究では全く別のアプローチが行われました。
ラン藻シートが金を吸着する
2015年、東京大学の研究チームは伊豆諸島の青ヶ島沖の水深700メートルの海底から、高温の熱水(約270℃)が噴き出す海底熱水鉱床を発見しました。
この熱水鉱床については、海中から採取された岩石から1トンあたり17グラム相当という高濃度の金を含むということが、以前の調査で確認されています。
ただ先にも述べたように、海底を掘削して金をとるのはコストがかかりすぎます。
そこで海洋研究開発機構とIHIの研究グループは、原始的な藻の一種であるラン藻を利用することにしました。
海底熱水鉱床から噴出する金のかなりの部分が、プラスに帯電した状態「金イオン」の状態で存在することが知られています。
(※金は安定した金属と言われていますが、のような高温高圧環境では硫黄や塩素と結合して錯体を形成します)
一方、ラン藻の細胞表面は、その細胞膜の成分である脂質やタンパク質に由来してマイナスに帯電しているため、プラスに帯電した金イオンが引き寄せられ、静電的に吸着されます。
他にもラン藻は、細胞外に多糖からなる高分子化合物(いわゆる海藻のヌメリ成分)を分泌していますが、このヌメリ部分も金のような重金属を吸着する性質があることが知られています。
また興味深いことに、重金属を吸着する性質はラン藻が死んだ後も維持されることがわかりました。
そこで研究者たちはラン藻をシート状に加工し、海底熱水鉱床の近くに設置してどれだけ金が回収できるかを調査しました。
結果、シートには最大で約1トンあたり7グラム相当の金が吸着していることが判明。
また、銀についても、同様の方法で約1トンあたり140グラムと高濃度で吸着できることが確認されました。
さらに研究者たちは、ラン藻シートを用いた金の回収試験を「温泉」でも試みました。
金の鉱脈は、地中深くのマグマに含まれる金が熱水に溶け出し、長期間にわたって地表に露出し冷え固まったと考えられています。
一方で温泉もまたマグマに熱せられた熱水が湧き出る場所ですので、いくつかの点において温泉と海底熱水鉱床と似ています。
温泉は未来の金鉱山になり得るのでしょうか?