トイレ水洗時の飛沫の広がり方は、便座の開閉で大きく異なる
コロナ禍以来、衛生管理の重要性が再認識されています。
特に、私たちの目に見えない「飛沫」「エアロゾル」の存在を意識する人が増えました。
その点、「水洗トイレで水を流した時に、粒子がどのように広がるのか」という疑問を抱いたことのある人も少なくないでしょう。
実際、アメリカのコロラド大学ボルダー校(CU-Boulder)の2022年の研究では、トイレの水を流した時に汚水のエアロゾル粒子がどのように広がるか、レーザーを用いて可視化しました。
この実験では、動画から明らかなように、フタを開けて水を流すことで、エアロゾル粒子はロケット噴射のように舞い上がり、そこから部屋中に広がることが分かりました。
では、どんなケースでも同じように飛沫やエアロゾルは広がっていくのでしょうか。
また、フタを閉めていれば問題ないのでしょうか。
このような、より具体的な疑問の答えを提出するため、産総研の福田隆史氏ら研究チームは、水洗トイレにおける飛沫の挙動を可視化し、様々な観点から分析しました。
彼らは最初に、便器のフタが空いた状態で、大きさの異なる飛沫やエアロゾルがそれぞれどのような挙動をするのかレーザーを用いて可視化しました。
その結果、大きな飛沫は放物線を描いて落下するのに対し、小さな粒径(10μm以下)のエアロゾルは浮遊し、気流によって流動していることが分かりました。
このサイズのエアロゾルは、トイレの個室内に数分~数十分間漂う可能性もあります。
加えてこの実験では、便座手前側で大きな粒径の飛沫が多く発生し、便座中央から置く側で粒径10μm以下のエアロゾルが多く発生していることも明らかになりました。
次の実験では、フタを開けた便器から発生するエアロゾルの粒子数と空間分布を測定しました。
その結果、エアロゾルは均等に広がるのではなく、前後に指向性を持って放出されていることが分かりました。
これは便器内の水流が作る空気の流れが影響していると考えられます。
加えて、湿度ごとの実験により、環境湿度が高くなるにつれて、発生するエアロゾルの総体積が増大することも分かりました。
湿度30%と70%では、4.6倍の差が生じており、高湿なトイレではエアロゾルが発生・拡散しやすい状態にあることも分かりました。
例えば東京では、1日の平均湿度が70%を越える日が、1年で約200日もあるため、ウイルス感染の面で一層注意が必要です。
では、便座を閉めていれば、どんな場合でも安全なのでしょうか。実はそうでもないようです。