ドラクエ生物学:スライム編
ドラクエ生物学:スライム編 / /Credit:clip studio . 川勝康弘
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生物学者の目でみる「ドラクエのスライム」とは?

2024.12.30 17:00:05 Monday

ドラクエの世界では多様なモンスターが勇者たちの行く手を阻む敵として登場します。

そのなかにはスケルトンやゴーストのような現実世界ではお目に掛かれそうもないファンタジックな敵だけでなく動物系、植物系、ドラゴン系など生物系の姿も数多くみられます。

生物学を学んでいると、ふと気になることがあります。

彼らはドラクエの世界でどのようにして誕生し、進化してきたのでしょうか?

物語やゲームのモンスターに、いちいち学問的な難癖をつけることはナンセンスです。

その結論は大抵「あり得ない」に収束するからです。

そこで今回は、ドラクエ世界のモンスターたちの存在をまず全面的に認め、彼らがその姿や能力を獲得した経緯を、最新の研究結果をもとに予想することにしました。

読者の皆さんには、ドラクエ世界のモンスターが考察され続ける過程の中で是非、生物学者の目を体験してもらいたいと思います。

第一章では、勇者の友と言えるスライムを生物学者の視点から分析したいと思います。

第二章ではドラクエ世界でスライムがいかに成功者になったのか、第三章ではスライムの進化の系譜を探りたいと思います。

第一章:見た目からはじめるドラクエ生物学

ドラクエ世界のスライムは単細胞生物ではない

動物の見た目だけでも多くのことを学べます
動物の見た目だけでも多くのことを学べます / Credit:clip studio . 川勝康弘

ドラクエのスライムはしずく型をした半透明の生き物として描かれています。

大きさは諸説ありますが、一般的には30cmから40cmほど体の中央部には眼球と口が存在しており、勇者一行への攻撃手段は体当たりがメインとなっています。

また幾つかの資料では、スライムは「ピキィーーー」という甲高い声を上げることが知られており、作品によっては言語を話す個体も確認されています。

生物学者の目を持つと、この単純な事実からでも多くのことがわかります。

それをまとめたのが上の図になります。

ドラクエ世界のスライムは独立した目と口を備えるだけでなく、跳ね回るための筋肉、鳴き声を上げるための声帯、そしてそれらを制御する神経系あるいはそれに類するシステムが存在していると考えられます。

単細胞生物にも光を感じる眼点が存在しますが、スライムの持っていると考えられる眼球とは異なる器官です
単細胞生物にも光を感じる眼点が存在しますが、スライムの持っていると考えられる眼球とは異なる器官です / Credit:clip studio . 川勝康弘

スライムを巡る議論に「彼らが単細胞生物であるか多細胞生物であるか」というものがありますが、このような複数種類の異なる組織(目、筋肉、神経など)を持つ動物というのは、ほとんどの場合、多細胞生物であると考えられます。

上の図に示すように、単細胞生物のゾウリムシにも、眼点と呼ばれる目に類似した部位や、細胞口と呼ばれる口腔を思わせる穴が開いているのが知られています。

しかしスライムの目は作品によっては人間の目のようにクルクル目玉部分が動く様子が描かれており「眼球」の存在が伺えます。

ゾウリムシの眼点が比較的単純な光の検知を行うのに対して、眼球は網膜に物体の形を投影することで、物の形や色を認識できるようになります。

スライムが光の明暗を感じ取る眼点ではなく眼球を持っているのも、地上生活を行う上でより高性能な眼球のほうが有利だったからでしょう。

またゾウリムシの細胞口は基本的には大きさを変えられませんが、スライムの口は大きく開閉させることが可能です。

スライムの口の周りには他の陸上動物と同じように形を制御するための筋肉組織が存在しているからでしょう。

また発声には筋組織や弾性組織を備えた器官(喉や声帯)およびそれを振動させるための呼吸様システム、つまり気体を通す気管に類する構造が必要です。

この点から、スライムは外観こそ簡素なゼラチン質生物のように見えますが、口の奥には意外と複雑な構造(空気を溜める気嚢的な空間、筋肉で制御される弁構造、音を増幅する共鳴腔など)が隠されているかもしれません。

また発声ができることは、単に生理機構だけでなく、意思疎通や仲間とのコミュニケーションの可能性も示唆します。

先にも述べたように、作品によっては言語的な発話が可能なスライムが確認されているとのことから、外部刺激に対する神経制御が高度に発達していることが考えられます。

これは単なる肉食・捕食戦略だけでなく、縄張り形成や求愛行動、群れでの集合行動(キングスライム化など)に繋がる社会的戦略の存在を暗示します。

このような違う機能を持つさまざまな器官を、単一の細胞だけで再現するのは現実的ではありません。

目、口、筋肉、神経、声帯など高度に役割分担された部位を持つには、それ専門の細胞を作ったほうが効率的です。

現実世界に存在する巨大単細胞動物と巨大単細胞植物
現実世界に存在する巨大単細胞動物と巨大単細胞植物 / Credit:wikipedia

現実の世界にも巨大な単細胞生物が存在するのは確かです。

たとえば世界最大の単細胞動物として知られる有殻アメーバーの一種は最大で数十センチにもなることが知られています。

またオオバロニアと呼ばれる海藻の一種も人間の目玉サイズになる巨大な単細胞を持っています。

同様の巨大単細胞植物としてはスーパーの海産物コーナーや野菜コーナーなどで売られている「海ぶどう」が存在します。

しかし彼らの体を調べてみると、どの部位を切り取ってもおおむね同じ構造をしており、目や口、筋肉など多様な器官に分化している様子は見えません。

また現実世界に存在する巨大な単細胞生物のほとんどは水中生活をしており、スライムのように意思をもって動き回ることはできません。

スライムは単細胞が巨大化したものでなく多細胞生物であると考えられます
スライムは単細胞が巨大化したものでなく多細胞生物であると考えられます / Credit:clip studio . 川勝康弘

しかし見た目からわかることは、もっとあります。

次は生物学者の目を通して、見た目だけからスライムの生活様式(生態)を解明したいと思います。

次ページ目の配置からわかるスライムの生態

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