目の配置からわかるスライムの生態
スライムをはじめて見た人々は、スライムの半透明の体に興味を引かれることになるでしょう。
しかし生物学者ならば、スライムのある部分に着目することで一般の人々を超えた情報にアクセスすることが可能です。
それは目です。
スライムの目は左右2つあり、そのどちらもが前方配置になっています。
目が2つあるのも、それが前を向いているのも当たり前と思うかもしれませんが、そうではありません。
目の数や目の配置は、その生物の生態と密接に結びついているからです。
たとえば草食動物の馬や牛などは目の配置が顔の左右に大きくはなれており、幅広い視野を持っていることが知られています。
特に一部のインコなどでは、人間の耳にあたるような左右の極めて離れた位置に目を配置しています。
これは捕食者を警戒するのに広い視野が有効だからです。
一方で、ライオンやトラのような捕食動物の目は、前方に集中して配置されており、左右の目の視野が重なるようになっています。
視野が重なることで物体を立体的にみることが可能になり、獲物までの距離感を把握しやすくなるのです。
猫が獲物にとびかかる前に顔を上下させるのは、左右に加えて上下の見え方を知ることで、より距離感を掴みやすくするためと考えられています。
この目の配置による分類は、哺乳類だけでなく鳥類にもみられます。
草食性のハトなどは目が左右に分かれて配置されていますが、肉食性のタカやフクロウなどは前方に集中配置されています。
ではスライムの場合はどうでしょうか?
スライムを見ると、その目は顔の全面に集中配置されており、捕食者寄りとなっています。
このことからスライムが移動や跳躍による捕食戦略を持つ可能性が浮かび上がってきます。
立体視により距離感を正確に掴むことで、小動物や昆虫状の獲物へ跳びかかる、正確なタイミングで突進するなどの行動が可能になるからです。
このことからスライムたちは自然界において、非力な狩られる側ではなく、狩る側としての側面も持つことを示唆しています。
同じ結果は口の形状からも導き出すことが可能です。
目と同様に口の形は、その動物がどんな食生活を送っているかを教えてくれるからです。
肉食動物の場合には、顔に比して大きな口の切れ込みを持つ傾向があります。
これは獲物を捕らえ、一度に多くの肉を食べるために有効だからです。
特にヘビなどの丸呑み系の捕食を行う動物では、自分の顔を大きく上回るほどの大口を開けることが可能です。
一方、草食動物の口の開きは比較的小さくなっています。
ライオンの口とウサギの口を比べると、口の大きさと顔の比率の違いが際立つでしょう。
そして雑食動物の場合は、両者の中間の口の大きさを持つと考えられています。
ここでスライムの口を見てみると、その大きさがよくわかります。
スライムの口の左右の長さは顔……いえ、体全体と比べても巨大です。
ドラクエのスライムの設定には「植物を食べる」「雑食性である」との両方の記述がみられますが、目と口の特徴は彼らが単なる草食動物ではなく、ある程度の捕食行動を行う可能性を示しています。
設定と併せて考えると、スライムの本当の食性は「雑食性」と考えられます。
雑食性は、「なんでも食べる」生態戦略を採用することで環境変化に対応する柔軟性を備えることができます。
ではスライムが捕食行動を行うとしたら、その狩りのスタイルはどんなものになるのでしょうか?
サバンナにいるチーターやライオンのように、狩りをするのでしょうか?
残念ながら、それはあまり考えられません。
手足がないスライムにとって長距離にわたり逃げる獲物を負い続けるのは困難です。
しかし希望はあります。
肉食動物の狩りのスタイルの中には「待ち伏せ型」というものも存在します。
その代表的な存在は「猫」です。
猫はネズミなどの存在を検知すると、巣穴の前や物陰に潜み、獲物が間合いに入った瞬間に素早くとらえます。
長距離の追跡が難しいスライムが捕食行動をするとなれば、猫のような待ち伏せスタイルをとることになるでしょう。
半透明な体の利点を生かして環境に溶け込み、前方配置した目で獲物が射程圏に入ったことを確認すると、跳躍を行い、巨大な口で一気に飲み込むわけです。
こうして、スライムの見た目に注目してみると、その内部には多細胞生物としての複雑な構造や、高度な感覚能力、さらには捕食者としての戦略までもが潜んでいる可能性が見えてきました。
「単純でかわいい」だけでは語れない、スライムという存在の奇妙さ、奥深さを感じることができたのではないでしょうか。
しかし、これでスライムの謎がすべて解けたわけではありません。