第三章:スライム進化の系譜
現実世界にスライムは存在しません。
しかしスライムに似た生物は存在するでしょうか?
あるときスライムは何に似ているかを子供に尋ねてみました。
すると「クラゲ」に似ているとの答えが返ってきました。
理由を聞いてみると、スライムとクラゲのぷよぷよ感が似ているからだとのこと。
そしてもう1つの理由は、どちらも頭だけしかないことでした。
子供っぽい意見だと思う人もいるでしょうが、生物学者の耳を持っている人ならば2つ目の言葉に深い意味を感じたでしょう。
ドラクエ世界においても、スライムの存在はある意味で異質と言えます。
現実世界の動物はさまざまに思えますが、体の構造は一定のルールにもとづいて組み立てられています。
草食動物の鹿と肉食動物のオオカミ、そして人間はそれぞれ全く別の種ですが、頭部・胸部・腹部・尾部という体の順番や手足の配置は同じです。
脊椎動物の祖先は遡れば全て魚類であり、陸上に進出する過程で魚類の中骨が背骨に、ヒレが手足に、浮袋が肺へと進化したという経緯しました。
しかしその激しい変化のなかにあっても、魚類の頭部・胸部・腹部・尾部という基本構成はあらゆる陸上脊椎動物に受け継がれています。
虫などの節足動物は私たちとはやや異なりますが、それでも頭部・胸部・腹部といったパーツは普遍的に維持されています。
進化は生命の外見を大きく変えてしまいますが、代わらない部分もあるという点を感じるのは生物学の醍醐味の1つと言えるでしょう。
一方スライムの場合、基本的には頭部と体を合わせたような曖昧な1部位しかもたず、それだけで摂食と運動の両方を行います。
現実の世界で1パーツしか持たない存在としては、クラゲが挙げられます。
クラゲは「ある意味で」全体が頭部であり、脳であり、体であり、口でもあります。
同様にスライムも、頭部だけで完結しています。
先の子供のセリフ「スライムもクラゲも頭しかない」という言葉は、生物学的にも極めて重大な特徴を言い表していたのです。
しかしスライムとクラゲの類似点はこれだけではありません。
上の図は動物の進化過程を描いた系統樹です。
1つは私たち人間の属する脊椎動物へ伸びる枝。
もう1つは虫などの節足動物やイカタコが属する軟体動物と延びる枝です。
系統樹において分岐の根元にいる生物は、地球上での出現が早く、古い種とされています。
たとえばクラゲの属する刺胞動物と海綿が属する海綿動物は、より根元のほうから分岐していることもあり、地球上での出現が早く、極めて古い種であると考えられています。
実際最新の科学でも、動物の最も最初の姿としてクラゲ派と海綿派が争いを行っている最中です。
(※現在はやや海綿派が有利となっています。)
またこの系統樹を見ると、上にいる動物のほうが複雑な体をもっており、下にいくほど単純な体を持っていることがわかります。
生物の外見は進化によって大きく変化しますが、先に述べた頭部・胸部・腹部といった大きな区分けは強く維持されることが知られています。
そのためドラクエ世界のスライムを現実の系統樹に当てはめようとした場合、上側の複雑な体のパーツを持つ生物たちに交じるのは難しいと言えるでしょう。
一方、系統樹の下側にあるクラゲは体が1パーツしかなく、海綿は動物でありながら主な内臓が腸しかなく、岩にくっついて腸に入ってくる微生物を消化しながら生きています。
以上の結果から、スライムの出自を求めた場合、クラゲなどが属する刺胞動物が最も可能性が高いと言えます。
ただクラゲが水中にしかいない一方で、ドラクエ世界のスライムは陸上にも存在します。
そこでここではドラクエ世界のスライムは、脊椎動物(魚)や虫(節足動物)が陸上進出したように、刺胞動物(クラゲ)が陸上進出した姿だと仮定することにします。
上の図ではその進化の系譜を描いています。
クラゲから分岐した最初期のスライムは海洋で生活していましたが、やがて陸上に進出し、食性や環境にあわせて様々な種に分岐していったと考えられます。
現実の世界では刺胞動物の陸上進出は叶いませんでしたが、もし起きていれば、スライムのような存在が生まれていたかもしれません。
DQ世界から離れて大きくファンタジー世界全体でみると、スライムというモノは世界中で見られ時には食料にもなり生活に密着していることから、学術的な分類ではなく現実世界での「ベリー」や「野菜」などのように何となくふわっとした括りなのかなとは思う
生物学的に見れば身体が半固体状か粘液状か、”核”の有無もスライムを分類するうえで重要な観点となる……?