薬物や心理療法が効かない「うつ病」がある
うつ病は今や成人の約20人に1人が患っていると推定されています。
抗うつ薬を用いた薬物療法や、セラピストとの対話による心理療法などが存在するものの、3人に1人の患者にはほとんど効果が見られません。
こうした薬物療法や心理療法でも症状が改善しないものを「治療抵抗性うつ病(TRD:treatment-resistant depression)」と呼びます。
その一方で、これまでの脳科学研究により、うつ病を発症する主な神経メカニズムとして、「背外側前頭前野(DLPFC)」の活動低下と「眼窩前頭皮質(OFC)」の活動過剰が深く関わっていることが判明しています。
DLPFCは感情調整の制御に関与しているため、ここが機能低下すると不安症や自己否定、無力感といったうつ病につながるメンタルに陥りやすいのです。
また眼窩前頭皮質(OFC)は報酬に関連する情報処理を担っており、ここが過剰に活動すると、報酬の欠如やネガティブな刺激に敏感に反応してしまい、負の感情を抱きやすくなるとされています。
そこで研究者たちが薬物療法、心理療法に次ぐ第3の治療法として進めているのが「rTMS治療(=反復経頭蓋磁気刺激療法)」です。
「rTMS治療」とは?
rTMS治療とは簡単にいうと、頭部に専用の電磁コイルをセットし、磁場を変化させることで、脳内に微弱な電流を発生させる方法です。
それを標的とする脳領域にピンポイントで当てることで、機能不全にある神経細胞を刺激し、正常な働きに戻すことを目指します。
rTMS治療は外から電流を直接与えるものではないため、電気ショックに比べて脳へのダメージがはるかに少なく、薬物療法のように副作用が出ることもほとんどありません。
また従来の薬物療法や心理療法より短期間で効果を実感できるため、通院の負担軽減などの面で利点があります。
こうした多くの利点から、日本でも2019年よりrTMS治療の適応が認可されました。
とは言うものの、rTMS治療は通常20〜30日にわたるセッションを必要とするため、重度の精神的苦痛や自殺念慮を抱いているなど、すぐにでも症状の改善が急務なうつ病患者にとってはまだ理想的な選択肢となっていません。
そこでケンブリッジ大を中心とする研究チームは今回、従来のrTMS治療のタイムスケジュールを大幅に短縮させた加速型rTMS治療の有効性を検証することにしました。