即興演奏とは本当に即興なのか?言語化されないルールを解明!
即興演奏とは本当に即興なのか?言語化されないルールを解明! / Credit:Canva . 川勝康弘
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即興演奏とは本当に即興なのか?言語化されないルールを解明!

2024.11.28 Thursday

目の前で繰り広げられる即興演奏に、心を奪われたことはありませんか?

その場で生み出される美しい旋律は、一体どのようにして生まれるのでしょうか。

本当に瞬間的なひらめきだけで奏でられているのか、それとも背後に隠れた法則や身体の動きが関与しているのでしょうか。

神戸大学の谷准教授は、この謎を解き明かすために、イランの伝統的な即興演奏に着目しました。

すると即興演奏が音だけでなく、手指や身体の動き、さらにはペルシャ語の朗誦(ろうしょう)リズムと深く結びついていることを明らかにしました。

西洋音楽とは異なる「声の文化」を持つイランの音楽。

そこには、楽器ごとの「手癖」や、口頭で伝承される独自の精神世界が存在します。

これらが即興演奏にどのような影響を与え、そして私たちが無意識のうちに持つ西洋的な音楽概念をどのように揺さぶるのでしょうか?

研究内容の詳細は書籍『Traditional Iranian Music – Orality, Physicality and Improvisation』にて記されています。

即興演奏とは本当に即興なのか? 言語化されない様々なルールを解明 https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20241111-66225/
Traditional Iranian Music – Orality, Physicality and Improvisation https://transpacificpress.com/collections/new-arrivals/products/traditional-iranian-music?variant=40790466789461

即興演奏は「手癖」が深く関わっている

即興の科学的理解が進むと興味不快事実も明らかになってきました
即興の科学的理解が進むと興味不快事実も明らかになってきました / Credit:Canva . 川勝康弘

即興で演奏するスキルは、昔から人々を驚かせてきました。

美しい旋律が次々に生み出される様子を眺めていると「本当の天才っているんだな」と思わずにはいられません。

そのためか、即興演奏は古くから科学研究の対象にもなってきました。

研究者たちは

即興演奏とは、本当にその場で瞬間的に思いついたメロディーを奏でているのか?

それとも背景には言語化されていないルールが存在しているのか?

などとさまざまな疑問を提示し、即興演奏の行われる仕組みを解明しようとしてきました。

近年では脳科学的な分析も進んでおり、即興音楽と脳の働きについても理解が進んでいます。

たとえば即興演奏を行うミュージシャンの脳活動を調べた研究では、自己監視を司る背外側前頭前皮質の活動が低下し、創造性を促進する内側前頭前皮質の活動が増加することが示されています。

つまり即興を行っている演奏者の脳は自己が薄れて、まるで憑き物に捕らわれたかのように創造性を発揮しているのです。

また他の研究では即興演奏中の演奏者はフロー状態(ゾーン)に入っているとも報告されています。

このような結果を見ると、即興演奏は本当に即興であると断言したくなります。

しかし既存の即興演奏の研究は主に西洋音楽を対象にして音的要素や演奏者の脳活動などが主な分析対象となっており、人間的な身体的要素の影響については十分に解明が進んでいません。

そこで神戸大学の谷准教授はイランで行われている即興演奏を観察し、新たな知見を得ようと試みました。

(※谷准教授は、イラン音楽の研究者のみならず、ピアノの祖先とも言われるサントゥールという伝統楽器の演奏者でもあります)

その結果、即興演奏は共有されている音楽的な「決まり文句」を演奏の瞬間に「思い出し」たり「言い換える」ことによって成り立っていること、またペルシア語の朗誦(ろうしょう)リズムにも大きく影響を受けていることが判明しました。

演奏家たちは日々の演奏を行うなかで、仲間との間で自然とお決まりのパターンを共有し、それを場面にあわせて継ぎはぎしていたわけです。

また研究では「音楽を音を中心に考える」だけではなく、それを鳴らしている身体にも着目しました。

すると即興音楽は音の要素だけではなく、ある種の「手癖」にも導かれていることが明らかになりました。

またその「手癖」の現れ方は、楽器の種類によっても大きな差異がみられることがわかりました。

つまり演奏する楽器が違えば、手指や身体の使い方も異なり、必然的に即興演奏の自由度にも質的な差が出ることになります。

もし即興音楽がこれまでの知見のように、音的な要素に支配されているならば、ピアノで奏でるときもフルートで奏でるときも同じ旋律を奏でるはずですが、身体的な制約や手癖の存在のせいで、同じにはならないわけです。

人間は身体と切り離せないため、手癖も即興の重要な構成要素になっています
人間は身体と切り離せないため、手癖も即興の重要な構成要素になっています / Credit:Canva . 川勝康弘

憧れの即興演奏が純粋な音要素だけではなく、仲間内の暗黙の了解や決まり文句、手癖によっても駆動されていると考えると、やや幻滅するかもしれません。

しかし即興が脳の創造性の純粋な形と考える既存の捉え方のほうが、美化しすぎているとも言えます。

人間は身体的な要素とは無縁ではいられないからです。

また研究では「テトラコード」ごとに異なって形成される手癖の記憶は、転調を含む即興演奏の自由度に重大な影響を与えていることが示されました。

(※テトラコードとは、音階を4つの音のまとまりとして捉える考え方で、ドレミファやソラシドなどが例として挙げられます)

谷准教授はこれらの知見は「音楽が音だけではなく、手指・身体の使い方と関連しながら成り立っていることを示している」と述べています。

しかし谷准教授は分析を続ける中で、近代的な西洋音楽とは異なる発展を遂げたイラン人たちの即興の中に、より深いものを発見することになります。

次ページ即興の精神は文化によって大きく異なる

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