「ヘビが怖い」は生まれつき備わった本能
弱肉強食の自然界を生き残るためには、脅威となる対象をすぐに見つけられる能力が不可欠です。
そのため、野生生物たちは自分たちにとって危険な相手を即座に検出できるようになりました。
その能力は私たちヒトにも受け継がれています。
人類は高度な都市社会を築く中で、天敵とほとんど遭遇しない環境を作り上げてきましたが、それでも尚、世界各地では野生生物による死傷者が続出しています。
ヘビは蚊や寄生虫、そしてヒトを除けば、最も多くの人命を奪っている生物の一種であり、WHO(世界保健機関)によると、ヘビに噛まれたことが原因で死亡する人は毎年8.1万〜13.8万人いるという(WHO report)。
そのため、ヘビは間違いなく私たちにとって脅威の対象となっています。
それは霊長類の仲間であるサルにとっても同じことです。
サルの祖先は恐竜亡き後の約6500万年前から樹上での生活を始め、地上を闊歩する大型の捕食者から安全に暮らすことができました。
しかしその中にあって唯一、樹上のサルの祖先を狙うことができたのがヘビでした。
それ以来、長きにわたるヘビの恐怖は霊長類の祖先のうちにしっかりと植え付けられ、それが現在のサルやヒトにも受け継がれていると考えられています。
実際、これまでの研究でも、本物のヘビを見たことのないサルは他の動物の写真よりもヘビの写真をいち早く見つけることができ、生後6〜11カ月のヒトの赤ちゃんもヘビの写真を見せられると顕著な脳波を示すことがわかっているのです。
つまり、サルとヒトは大人たちからヘビの怖さを教わったり、ヘビに噛まれた経験からヘビを脅威と認識するのではなく、遺伝的に「ヘビが怖い」と感じる本能を生まれつき持っているのです。
ところがその一方で、サルやヒトが具体的にヘビのどこを目印に脅威と感じているのかは不明でした。
ヘビに特有のぬるっとした姿形なのか、うねうねした動きなのか、はたまたヘビのウロコなのか。
過去のいくつかの研究は「ウロコを脅威の手がかりにしている」ことが示唆されていますが、確かな証拠はありません。
そこで研究チームは今回、飼育下にあるサルを対象に実験を行うことにしました。