ほとんどの人々は「隠れた絶対音感」を持っている
イヤーワームは正確な旋律を奏でているのか?
自分では正確だと思っていても、絶対音感のように実は1万人に1人程度しか正確なイヤーワームを実現できていないのではないか?
謎を解明するべく、研究者たちは、参加者たちに、一日中ランダムな間隔で、自分が耳に残っている曲を歌ったりハミングしたりするのを録音してもらいました。
また重要な事実として、参加者の中には絶対音感を持つ者はおらず、多くは非音楽家となっていました。
実際、参加者たちにインタビューを行うと「参加者は曲のメロディーを自信を持って思い出すかもしれないが、キーを正しく把握する能力を疑っている」との回答が得られました。
しかし実験結果は、参加者たちの自信の無さを、いい意味で裏切りました。
録音された音を分析した結果、全体の44.7%が原曲の音程と完全に一致し、68.9%が半音以内の正確だと判明したのです。
興味深いことに、この正確さは様々な曲で観察され、参加者が最近その曲を聴いたか、かなり昔に聞いたかによっては変化しませんでした。
加えて個人の音楽的訓練のレベルにも左右されませんでした。
この結果は、私たちの脳内で歌い続けるイヤーワームは正確なキーの情報を保持していることを示しています。
研究者たちはこの能力を通常の絶対音感と区別して「隠れた絶対音感」と表現しています。
(※厳密に言えば、本当の絶対音感は参照することなく音のキーを当てられるのに対して、研究で明らかになった「隠れた絶対音感」は、音感の正確な記憶能力と言えるでしょう)
またそのプロセスの記憶は意識的にではなく、無意識的に行われたものとなります。
さらにこれは長期記憶の形成と言う点では、異常事態でもありました。
長期記憶がなされるときに私たちの脳は情報の要点化と単純化を行うという習性があります。
そのため音楽の記憶が保存される場合には、当然ながらキーのような情報は切り捨てられていてもおかしくはありません。
音楽はキーが違っていても非常に似た音に聞こえるため、脳がその情報を無視して記憶を形成するのは近道にもなります。
しかし結果は、私たちの音楽的な記憶がそのような情報の切り捨てが行われていない可能性を示しています。
研究者たちは、音楽の情報が脳内で蓄積される過程は、通常の長期記憶形成とは異なるユニークな特性を持っているのかもしれないと述べています。
音楽がしばしば専門的な技術とみなされる世界において、この研究は、メロディーを正確に想起し再現する能力が、意識的な努力なしに自然に生じる普遍的な人間の特性であることを示します。
もしかしたら音楽の記憶という意味において、私たちは同じ程度に天才なのかもしれません。