脳内で繰り返される音楽は「隠れた絶対音感」の証です
脳内で繰り返される音楽は「隠れた絶対音感」の証です / Credit:Canva . 川勝康弘
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大多数の人々は「隠れた絶対音感」を持っていると判明!

2024.12.02 Monday

「気づくと何度も同じ音楽が頭の中で繰り返されている…」そんな経験はありませんか?

この現象は「イヤーワーム(耳虫)」と呼ばれます。

実は、このイヤーワームは多くの人々にとって身近な現象であり、研究によれば約90%以上の人が週に一度は経験するとされています。

アメリカのカリフォルニア大学(University of California)で行われた研究では、このイヤーワームを通じてほとんどの人間には「隠れた絶対音感」が備わっている可能性が示されました。

研究者たちは論文の冒頭にて「私たちの結果は、人口の大部分が絶対音感を持っているという新たな証拠を提供します」と述べています。

通常の絶対音感は1万人に1人未満しか持たないと言われていることと比較すると、これは大きな違いです。

今回は前半部分で「頭にこびりつく音楽」イヤーワームについて近年の脳科学研究によって明らかになった興味深い事実を紹介すると共に、後半ではイヤーワーム研究から判明した隠れた絶対音感の存在について解説したいと思います。

(※イヤーワーム研究については十分に知っているという人は、2ページ目以降から読み進めて下さい)

研究内容の詳細は『Attention, Perception, & Psychophysics』にて「無意識の音楽イメージにおける絶対音感(Absolute pitch in involuntary musical imagery)」とのタイトルで公開されています。

Singing from memory unlocks a surprisingly common musical superpower https://news.ucsc.edu/2024/08/earworms-music-memory-perfect-pitch.html
Absolute pitch in involuntary musical imagery https://doi.org/10.3758/s13414-024-02936-0

「頭にこびりつく音楽」を脳科学する

イヤーワームが発生するきっかけはさまざまです。

最近聞いた曲が頭に残り、繰り返し再生されることもあれば、特定の言葉や場面が過去の音楽記憶を呼び起こすこともあります。

また、感情的な出来事やストレス、単調な作業中など、心に余白が生まれたときにイヤーワームが顔を出すことが多いのです。

たとえば、通勤途中に聞いたポップソングが一日中頭から離れなかったり、友人との会話の中で出てきたフレーズが昔好きだった曲を思い出させたりします。

このように、イヤーワームは日常の中の小さなきっかけで引き起こされます。

音楽教育を受けている人や音楽に親しんでいる人は、イヤーワームを経験する頻度が高い傾向があります。

しかし、音楽教育を受けていない人でもイヤーワームは起こります。性格特性も影響し、創造性が高い人や感受性豊かな人はイヤーワームを感じやすいと言われています。

それは、音楽が感情や記憶と深く結びついているからかもしれません。

イヤーワームが発生する脳内メカニズム

イヤーワームは、脳内の複数の領域が関与する複雑な現象です。特に、音楽を処理する聴覚皮質や、記憶を司る海馬、そして注意や計画を担当する前頭前皮質が活発に働いています。

興味深いのは、この現象がデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれる意識的な努力を必要としない無意識的なプロセスが関与しているという点です。

DMNは私たちが休息しているときや何もしていないときに活性化し、内省や記憶、想像力に関与します。つまり、イヤーワームが起こるのは、脳が無意識のうちに高度な情報処理を行っている証拠なのです。

イヤーワームの謎は脳科学の進歩により徐々に明らかになってきました
イヤーワームの謎は脳科学の進歩により徐々に明らかになってきました / Credit:Canva . 川勝康弘

またイヤーワームが発生する背景には、私たちの脳の認知プロセスが深く関わっています。

特に注目すべきはワーキングメモリの役割です。

ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持し、操作するための脳のシステムのことです。

この容量が大きい人ほど、イヤーワームをコントロールしやすいと言われています。

もしあなたが、イヤーワームの開始や終了をある程度コントロールできると感じているなら、それはあなたのワーキングメモリが高い能力を持っている証拠かもしれません。

自分の頭の中で流れる音楽を意識的に切り替えたり、止めたりできるというのは、情報を効率的に管理できる脳の力を示しています。

一方で、イヤーワームは「注意資源の余剰」という概念とも関連しています。

私たちの脳は、常に何かしらの情報を処理しようとします。

単純な作業や暇な時間があると、その余剰の注意資源がイヤーワームとして表面化するのです。

これは、コンピューターで言えば、余ったメモリを使ってバックグラウンドでプログラムが動いているようなものです。

イヤーワームは、ワーキングメモリを一時的に占拠する情報の断片であり、脳が「空白」を埋めようとする自然な反応とも言えます。

このように、イヤーワームは私たちの認知プロセスや脳の働きと深く結びついた現象であり、その理解は脳科学の重要な一端を担っています。

イヤーワームの意外な利点

イヤーワームは時に煩わしく感じられることもありますが、その現象を上手に活用することで、日常生活や学習に役立てることができます。

たとえば、語学学習において、音楽を使った学習法は効果的です。

キャッチーなメロディーに乗せて新しい単語やフレーズを覚えると、そのメロディーがイヤーワームとして頭の中で繰り返され、自然と記憶に定着します。

これは、音楽が記憶と強く結びついているためであり、イヤーワーム現象がそのプロセスを助けてくれるのです。

単語帳を開いて必死にならなくても、脳内で自然に音楽に乗って英単語が流れているとしたら、その学習効果は飛び抜けたものになるでしょう。

また、イヤーワームは感情や気分にも影響を与えます。

お気に入りの曲が頭の中で流れると、気分が高まり、モチベーションが上がることがあります。

一方で、ネガティブな感情と結びついた曲がイヤーワームになると、気分が落ち込むこともあります。

したがって、自分の気分をコントロールする手段として、意識的にポジティブな音楽を取り入れるのも一つの方法です。

さらにイヤーワームの持つ特性は、リハビリテーションの分野でも注目されています。

音楽は脳のさまざまな領域を活性化させるため、言語障害や運動機能の回復を目指すリハビリに活用されています。

イヤーワーム現象を利用して、患者が日常的にリハビリのための音楽を思い出すように促すことで、継続的な効果が期待できます。

イヤーワームは、ただの「頭にこびりつく曲」ではなく、私たちの脳の高度な機能と深く関わる現象です。

この不思議な現象を理解することで、自分の脳の働きや認知プロセスについて新たな発見があるかもしれません。

イヤーワームとの上手な付き合い方:対処法と予防策

イヤーワームは時に煩わしく感じることもありますが、その対処法を知っておくことで日常生活でのストレスを軽減できます。

まず、新しい音楽を聴くことは効果的な方法の一つです。

頭の中で繰り返されるメロディーを別の曲で上書きすることで、イヤーワームから解放されるかもしれません。

次に、集中できる活動を行うことも有効です。

パズルや読書、計算など注意を必要とするタスクに取り組むと、脳が他の情報処理にリソースを割くため、イヤーワームが薄れることがあります。

また、ガムを噛むというシンプルな方法も試してみてください。

口の動きが脳の音楽想起を妨げるとされ、一部の研究でイヤーワームの軽減効果が示唆されています。

さらに、リラックスすることも大切です。

ストレスや疲労はイヤーワームを引き起こしやすい要因の一つなので、十分な休息やリラクゼーションを心がけることで予防につながります。

イヤーワームをポジティブに捉えることも一つの手です。

お気に入りの曲や楽しい思い出と結びついたメロディーであれば、そのまま楽しんでみるのも良いでしょう。

あるいはなぜその音楽がイヤーワームになったかを自己分析することで、今の自分の心理状態や欲求を把握するのに役立つかもしれません。

今頭の中で響き続けている音楽は、あなたにとって必要な何かを訴える暗喩の可能性もあるからです。

以上のようにイヤーワームは、脳科学的にも心理学的にも非常に興味深い現象であり、現在も活発に研究が行われています。

そこで今回カリフォルニア大学の研究者たちは、イヤーワームが元の音楽と比べてどれだけ正確であるかを調べる試みに挑みました。

音楽的才能は個人差が大きく、特に絶対音感を持つ人は1万人に1人未満とされています。

では脳内で鳴り響くイヤーワームたちも同じような能力の大きな差があり、正解な音律を奏でられるイヤーワームも1万匹に1匹なのでしょうか?

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